「ミス・! 貴様の授業は何だ。プランの半分も進んでいないではないか」
初の授業を終えた後、反省会で叱られた。この年になって年上の人に怒られるなんて、すごく落ち込む。確かに散々な授業だった。ウィーズリーの双子がイタズラして鍋を爆発させるという騒ぎがあったのがその主な原因だ。が、スネイプ先生に言わせると、あれは目を光らせていれば十分に防ぐことができたらしい。
「しかし魔法薬学の苦手だった貴様が我輩のもとに来るとは。運命の皮肉だな」
正直なところ、私のような生徒を憶えているわけがないと思っていた。驚いて顔をまじまじと見ていると、スネイプ先生は不機嫌そうに眉をひそめた。
「優秀な生徒であるにもかかわらず、魔法薬学だけは苦手だった。そういう生徒は珍しかったのだ」
先生は授業でしか会ったことのない私のことも憶えてくれていた。先生の頭の中には一体どれくらいの生徒のデータが入っているのだろうと思う。私たちは七年で卒業する。しかし先生はずっとホグワーツにいて、入って来ては出て行く生徒を指導し、見守るのだ。多くの生徒と出会い、別れていく。
「教師って、実は寂しい職業なのかもしれませんね」
急に何を言い出すのだとでも言いたそうな目で、先生は私のことを見た。慌てて自分の言葉の意味を解説する。
「あの、生徒はすぐ卒業してしまいます。それで二度と会えなくなる生徒もいるでしょう? それが寂しいなって」
ピシャリと言い放ち、スネイプ先生は私の書いた明日のプランに目を落とした。言わなきゃ良かったな、と思いかけた時、
「我輩は、貴様が実習生として戻ってくると信じていた。そして、必ずホグワーツの教師として戻ってくると信じている」
あれ? 先生に私は教師になりたいと言ったことがあったっけ? いいや、ないはず。私の夢を話したのは友人だけだ。苦手だったスネイプ先生に言うはずなんてない。じゃあどうして先生はそんなことを言うのだろう。
「先生、私は必ず教師になります」
先生はうなずいた。また私のプランに目を通し、しばらくしてからポンと机の上にそれを置いた。
「」
ファースト・ネームで呼ばれた。ドキっとする。今までこの先生が人のことをファースト・ネームで呼んでいるのを聞いたことがない。何だろう。ドキドキしてきた。
「なんだこのプランは。一時限でそんなに進めるものか。やり直しだ」
……やっぱりこの人は苦手だ。
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