教育実習での一日


 ダンブルドア校長に、私の指導教官はスネイプ先生だと告げられた時はその場で倒れそうになった。魔法薬学とスネイプ先生が苦手な生徒であった私はいつも先生を避けていたのだ。まさか教育実習生として母校に戻った今、そのしわ寄せが一気に来るとは思っていなかった。一ヶ月間あのスネイプ先生からマンツーマンで指導を受けるのだ。そう思うと気が滅入る。
 とぼとぼ廊下を歩いていたが、すれ違うかわいい生徒たちを見てやる気を取り戻した。スネイプ先生がどうのこうのと小さいことで悩んではいられない。私は教師になるためにここに戻ってきたのだ。指導教官にいびられようが、頑張ってやる! と、気合を入れてすれ違う生徒みんなに声をかけた。一人でも多くの生徒の顔と名前を覚えて仲良くなろう。目指すは友達百人ならぬ生徒百人! 密かに私はそう決意した。しかし……。

「ミス・! 貴様の授業は何だ。プランの半分も進んでいないではないか」

 初の授業を終えた後、反省会で叱られた。この年になって年上の人に怒られるなんて、すごく落ち込む。確かに散々な授業だった。ウィーズリーの双子がイタズラして鍋を爆発させるという騒ぎがあったのがその主な原因だ。が、スネイプ先生に言わせると、あれは目を光らせていれば十分に防ぐことができたらしい。

「しかし魔法薬学の苦手だった貴様が我輩のもとに来るとは。運命の皮肉だな」
「……憶えていて下さったのですか」

 正直なところ、私のような生徒を憶えているわけがないと思っていた。驚いて顔をまじまじと見ていると、スネイプ先生は不機嫌そうに眉をひそめた。

「優秀な生徒であるにもかかわらず、魔法薬学だけは苦手だった。そういう生徒は珍しかったのだ」
「そうでしたか」

 先生は授業でしか会ったことのない私のことも憶えてくれていた。先生の頭の中には一体どれくらいの生徒のデータが入っているのだろうと思う。私たちは七年で卒業する。しかし先生はずっとホグワーツにいて、入って来ては出て行く生徒を指導し、見守るのだ。多くの生徒と出会い、別れていく。

「教師って、実は寂しい職業なのかもしれませんね」

 急に何を言い出すのだとでも言いたそうな目で、先生は私のことを見た。慌てて自分の言葉の意味を解説する。

「あの、生徒はすぐ卒業してしまいます。それで二度と会えなくなる生徒もいるでしょう? それが寂しいなって」
「我輩はそうは思わん」

 ピシャリと言い放ち、スネイプ先生は私の書いた明日のプランに目を落とした。言わなきゃ良かったな、と思いかけた時、

「我輩は、貴様が実習生として戻ってくると信じていた。そして、必ずホグワーツの教師として戻ってくると信じている」

 あれ? 先生に私は教師になりたいと言ったことがあったっけ? いいや、ないはず。私の夢を話したのは友人だけだ。苦手だったスネイプ先生に言うはずなんてない。じゃあどうして先生はそんなことを言うのだろう。
 疑問を感じながら、先生の目を見た。鋭いまなざしでこちらを見てくる。それで一瞬だけギョっとしたが、よく見ると瞳の奥から何ともいえない温かさが出ていた。
 スネイプ先生に温かさ? 現役ホグワーツ生の頃には考えもしなかったことだ。しかし実際にスネイプ先生は優しさを秘めた目で私を見つめている。
 魔法薬学が苦手で、厳しいスネイプ先生も苦手だった私は、授業中も先生の目を見ていなかった。けど、先生は私のことをきちんと見てくれていたのだ。でないと、私が教師を目指しているなんて見抜けるはずがない。
 何も気づいてなかった自分に恥ずかしさを覚えた。苦手なものから目をそむけていて、大切な何かに気づいていなかったのだ。

「先生、私は必ず教師になります」

 先生はうなずいた。また私のプランに目を通し、しばらくしてからポンと机の上にそれを置いた。

 ファースト・ネームで呼ばれた。ドキっとする。今までこの先生が人のことをファースト・ネームで呼んでいるのを聞いたことがない。何だろう。ドキドキしてきた。
 何かを期待している自分がいて、そんな自分にコラ!と叱る。おずおずと、何でしょう?と聞いた。

「なんだこのプランは。一時限でそんなに進めるものか。やり直しだ」

 ……やっぱりこの人は苦手だ。
 私は返されたプランを手にしてため息をついた。

教育実習での一日:終

 初のハリポで、スネイプ先生夢です。教育実習生設定かよ?! というツッコミも大いに受け止めさせていただきますとも!(←誰だお前)
 ドリームラヂオに載せていただきました。       冬里