宇宙空間に打ち上げられていた塾長が自力で戻ってきて、数週間が経った。
 塾長が塾生皆に特別休暇とお小遣いをくれるということを聞き、皆は喜んで遊びに行く計画などをたてた。

 さて、俺はどうしようか。

 泊鳳は宗嶺厳やファラオたちと一緒にヘズニーランドに行くという。泊鳳のお守りも兼ねてそれに合流することになりそうだった。ところが……。

「蒼傑はどうする?」

 まばゆいばかりの笑顔で、が聞いてきた。それで迷うことになる。







 天挑五輪大武会で初めて見た時、蒼傑はを女だと思った。月光に負けた後、男塾陣営に戻って行く彼の背中を目で追っていると、自然と陣営にいる人たちが目に入る。大将の桃、槍使いの伊達、お調子者の富樫と虎丸。そしてが月光を迎えていた。

 なんてきれいな女性だ。

 楊貴妃と並んでも見劣りなどしないだろうと思われる。顔がかあっと熱くなり、血の巡りが急激に早くなった。まるで恋でもしたみたいに。
 しかし、考えてみると相手は男塾にいる。したがって、全員が男のはずだ。そこに女などいるはずがない。
 忘れよう、と思った。
 あれは胸に受けた傷の痛みが見せた、一瞬の幻だったのだと。

 蒼傑は梁山泊に戻ってからも修行に励もうとした。しかしどうしてもの顔が頭にちらついて、集中できない。どうやら、男であるに恋をしてしまったみたいだ。自分にそんな気があるとは知らなかった。いや、そこらへんの女よりきれいなが悪い……。
 そんな風に蒼傑が恋わずらいにかかっていた頃、泊鳳が男塾に入塾して男を磨きたいと言い出した。

「蒼傑のあんちゃんも行くずら!」

 泊鳳に誘われ、周りの人間から「泊鳳様の世話を」と頼まれ、蒼傑は日本行きのチケットを手に入れた。
 そして、今に至る。



「蒼傑はどうする?」

 に聞かれて、戸惑った。泊鳳のお守りで自分もヘズニーランドに行くつもりだったが、がどうするのかも気になる。

「そういうはどうするんだ?」

 質問に質問で返すとは、我ながら失礼な奴だ。はどう思っただろう。蒼傑はしばし自己嫌悪気味になったが、は気にしていないようだ。相変わらずニコニコ笑っている。

「迷ってるんだ。桃や松尾たちはヘズニーに行くって言ってるが、俺にはテーマパークなんて似合わねえし」

 男口調も、に似合ってないようだ。どことなく舌足らずにも思える。
 蒼傑は入塾してすぐに、あるアクシデントによってが女だと知った。自分は男色の趣味がなかったんだと安心したものの、には自分が彼女の正体に気づいているとは言えない。言ったら最後、今までのように接することができなくなってしまうのではないか。あくまで男としてに接しなければならない。それが蒼傑には辛かった。

「おい、聞いてるのか蒼傑?」

 気がつけばがさっきよりも接近して、自分の顔を下から覗き込んでいる。あまりそういう動作をしてほしくない。自分にするのはいいが、他の野郎にその愛らしい表情を見せてほしくないのだ。

「蒼傑のあんちゃーん!」

 泊鳳が来た。横に宗嶺厳もいる。

「ヘズニーランドのパンフレットを松尾に借りてきたぜ!」

 こんな時に! と思ったが遅い。は泊鳳の言葉を聞いて、

「なんだ、先約があったのか」

 と、教室を出て行ってしまった。
 追うべきか、追うべきでないか戸惑い、「待て」という意味で差し出した右手が虚しく宙をつかんだ。

「もしかして、は蒼傑のあんちゃんを誘いたかったんじゃねえ?」

 泊鳳が後でつぶやいた。振り返って、

「なぜそう思う?」

 と聞く。
 泊鳳は宗嶺厳と顔を見合わせ、それから蒼傑を見てにやりと笑った。

「蒼傑あんちゃん、本当はと一緒にいたいんだろ? 桃たちと合流するから、俺のことは構わずに行けよ」

 泊鳳は近づいてきて、蒼傑の背中をポンポン叩いた。

「蒼傑は変に固いからいけないんだ。さあ、追って」

 宗嶺厳に言われ、蒼傑は教室を出た。



 たぶん、校庭にいるのだろう。
 そう思いながら早歩きで行く。
 しかしのこととなると、どうしてこうも優柔不断になるのだろう。の前で格好の良い自分を、とはいかないまでも、せめていつも通りの自分を見せたいのに。どちらかというと無口な方だが、の前だと無口に拍車がかかるのも困ったものだ。
 蒼傑は校庭に出た。
 校門の側にある木の下で、が座っている。ぼんやりと空を見上げていた。
 近づいて行くにつれて、胸の鼓動が高鳴る。そういえば泊鳳は、なぜが自分を誘いたかったなどと言ったのだろう。そんなことは信じられないのだが。
 蒼傑はの横に立った。思い切って声をかけようとする。が、先にが気づいてこちらを向いた。
 その顔に見とれてしまう。

「なんだ?」

 聞かれて、蒼傑は慌てた。そうだ、こちらから切り出さなければ。

「さっきの話だが……」
「ああ。蒼傑は泊鳳たちと行くんだったな」

 少しムスっとして、はうつむいた。

「違う。断った」
「へえ?」

 また、こちらを向く。は、今度はぱっと明るい表情になった。
 ここからだ。ここから、どう言うべきか。蒼傑はなかなか口に出せない自分に少しばかりイラついた。
 が立ち上がる。

「じゃあ、ちょうどいい。お前に頼もうと思ってたところだったんだ」

 が蒼傑に近づく。

「今度の休暇、俺に弓術を教えてくれ!」

 頭を下げた。
 一気に肩の力が抜けたような気がする。
 蒼傑は嬉しさを抑えきれずに、

「ああ」

 と返事をし、そしてに頭を上げさせた。

「ありがとう! お礼に何でもするぜ!」

 にっこり笑ってこちらを見上げてくるに、蒼傑は顔が赤くなるのを止められなかった。お礼に何でもするという言葉を聞いて、よからぬ妄想をしそうだ。そればかりは止めなくてはならない。
 蒼傑とはしばらくそこで立っていた。



 それを校舎の影から覗いている二人がいる。泊鳳と宗嶺厳だ。

「どうやらうまくいったみたいだな」

 宗嶺厳は横にいる泊鳳に言った。

「まったく、世話のかかるあんちゃんだぜ。やっとデートの約束にとりつけたみたいだ」
「……男同士なんだから、デートはないでしょう」

 そんなやりとりをしている二人の目には、と蒼傑が仲睦まじくしているカップルのように映っているのだった。

的:終

 アンケートに蒼傑とあったので、ちょっと書いてみたくなって書いた夢です。
 蒼傑がよく分からないキャラな上に、話も小学生学年誌に出てくる少女漫画チックだ。ごめんなさい。
 次書くときは、もっとかっこええ蒼傑殿を書いてみたいでござる(←誰?!)

      冬里

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