やけに寒いと思っていたが、それもそのはず、雪が降り校庭を銀世界に変えていた。授業が終わった後、皆が窓に集まり雪だ雪だと子供のようにはしゃぎだす。
 桃はそれを寝起きのぼんやりした目で眺めていた。後からも窓辺に駆け寄って来て、背伸びをして松尾の肩越しに外を見た。きれいな瞳をかがやかせて、やがては微笑んだ。

「ホワイト・クリスマスだな」

 なんだか楽しそうに言ったに、塾生全員が冷たい視線を突き刺す。



ホワイト・クリスマス

クリスマス企画! 男塾:桃編



「まったくよう、つまんねえこと思い出させるんじゃねえぜ!」
「す、すまん」

 富樫に叱られ、さっき雪を見た喜びはどこへやら。はしゅん、とうなだれた。

「いいか、俺ら塾生はシャバとの縁はとっくの昔に切れてんだ! クリスマスなんてくそっくらえだ! クリスマスなんか……」

 虎丸は涙を流し、をにらみつけた。

「わかったよ、悪かった」
「それとも、お前女みたいな顔してやがるくせにクリスマスを過ごす女でもいるのか?」

 鬼のような形相で虎丸がに顔を近づけてくる。離れるように、離れるように後ずさりしても間を縮めてくるので困ったものだ。

「いねえよ」
「本当か?」
「本当だ。あ、ほら、外に出て雪ダルマでも作ろうぜ!」

 この場から逃げ出すため、苦し紛れに言ったことだが、虎丸と富樫は単純にうなずいた。近くにいた松尾や田沢らなんかは、腕まくりなどをして早々と外に出て行った。教室を出る時、は桃を見て、

「一緒に行くか?」

 と聞いた。すると桃は立ち上がり、首を左右に振った。

「今日はもう帰る」

 そう言っての横を通り、教室を出て行った。

「桃のやつこそ、女がいるんじゃねえのか?」

 桃を見送ってから、富樫がつぶやいた。それを聞いて虎丸、がにらみつける。

「俺をにらむなっての! にらむなら桃をにらめ!」
「まあな。桃はいい男じゃし、女がおっても不思議なことはあるめえ!」

 二人はそんなことを話しながら教室を出た。後に残ったは、桃に彼女がいてもお咎めナシかよ、とつぶやきつつ、もぬけの殻になった教室を見て仕方なく戸締りを始める。
 先ほど富樫が言った、桃に女がいるのではないかという一言がの中で妙にひっかかった。最後に教室の施錠をして、廊下を歩きながら、桃の彼女はどんな人かと考える。清純そうな、髪の長い美人が桃の隣で街の大きなクリスマス・ツリーを眺めているのだろうか。それを想像しては首を振った。
 何を考えてるんだ。ここでは、男だろ?
 顔をぱしぱしと叩いて気合いを入れる。そうだ。ここでは男だ。女の自分は、この男塾という地獄の中にはいないはずだ。

 拳を握りしめながら外に出ると、雪だるま作り計画がいつの間にか雪合戦に変更となっていた。顔面に誰かの投げた雪があたる。あまりの冷たさに驚き、うひゃあ、と声をあげた。

「ぼーっとしてるからだぜ!」

 虎丸が遠くでからかったので、虎丸のいるチームとは別のチームに加わり、やつとやり合った。がむしゃらに雪を丸めて、投げる。なんとなく、ストレス発散だ。
 しかし桃のやつ、硬派な野郎だと思っていたのに彼女なんかつくりやがって!
 の中で沸々と怒りに似た感情が沸きあがり、雪をつかむ手に力が入った。

「おい、、お前泣きそうだぞ?」

 横にいた田沢が心配したのか、顔を覗き込んできた。松尾も、その他のやつらもの周りにくる。

「打ち所が悪かったのか?」
「どこが痛いんだ、?」
「なんでもねえ。俺、先帰るわ」

 逃げるように校庭を後にし、男塾から出た。
 街はカップルで埋まり、クリスマス・ツリーがあらゆる店の前を飾っている。今ごろ桃は誰かと一緒に歩いてどこかに出かけているのだろうか。そう思うと胸が締め付けられそうだ。そんな気持ちを抱えたまま黒い学ランで一人、は白い街の中を急いだ。



 寮に戻り、部屋に入るとそこに桃がいた。

「桃、お前何やってるんだ?」

 丸テーブルの上にシャンパンとケーキを出している。

「早かったな」

 状況がのみこめず、はそこに立ったままだった。

「お前、彼女は?」
「彼女? 何のことだ?」

 桃はに座るよう言い、自分はどこから用意してきたのか、グラスにシャンパンを注ぎ込んだ。グラスも、皿も二つある。

「全員の分はないが、同室仲間でやるには充分だろう」
「まさか桃、これを用意するためにわざわざ早く帰ったのか?」
「ああ」
「……なんだよ、野郎同士でイヴを祝っても気色悪いだけじゃねえか」

 そう言いつつもは、嬉しくなって自分からグラスを取り、乾杯をした。


 ケーキを食べ、シャンパンを二本ほど空けたところではその場に寝崩れた。布団を被せてやりながら、桃はその罪のない寝顔を見てフッと笑う。
 年に一回くらい、こんな日があってもいいだろう。男塾にいる間は男同士だが、今日くらい、が女に戻ってもバチはあたるまい。の正体を知っているのは自分だけで、しかも今は二人きりなのだから。
 寝ているの髪をかきあげ、桃はそっと、その柔らかな唇に口づけた。
 外はもう、暗くなっていたが、白い雪はまだ静かに降っている。
 ホワイト・クリスマス。
 雪が二人を見守っているようだった。

ホワイト・クリスマス:終

 以上、桃クリスマス夢でした。
 桃のキャラ、違うような気がせんでもないですが、そのままGOってことで・・・はい。

      冬里

感想などがあれば一言どうぞ。拍手ワンクリックだけでも嬉しいです。↓