「おい、伊達」
寮に帰ろうとして校庭を通っていると、呼び止められた。振り返らなくてもその高い声で誰だか分かる。だ。 不意打ちだ、と思う。
穏やかな光を浴びて、は愛らしい微笑を浮かべていた。
手合わせ「この前、お前に言われたことを参考にして特訓してたんだが……」 急にそう言われても何のことか分からない。しかしはこちらのことを気にせずに続けた。
「俺にぴったりの技を編み出したんだ。だから相手になってくれ」
速攻で答えた。 「つまんねえな、即答かよ」 というの声が背後で聞こえる。構わずに校門を出ようとした。 「じゃ、桃に相手してもらう」
そして立ち去る足音がした。 「おい」 呼びかけると、はぴたりと止まった。くるりと振り返り、怪訝な顔を見せる。 「気が変わった。相手してやろうじゃねえか」
そう言い終わらないうちに、の顔がぱっと明るくなった。ころころ表情が変わるのが、見ていて飽きない。
「じゃ、始めるか。伊達、槍を構えてくれ」
しぶしぶ、伸縮性の槍を学ランから取り出した。柄を伸ばし、構える。 「いくぞ!」
のかけ声。 「まいった!」 小柄をおさめて、は伊達から離れた。 「やっぱお前、強いや」
羨望と尊敬の入り混じった表情を伊達に向ける。 「しかし、考えたな。日本刀の鞘はフェイントというわけか」 正直にそう言う。は照れくさそうにしてうつむいた。しかしその後で、キッと伊達を真正面から睨む。 「だけどお前は手加減しただろう。八連制覇で見せたお前の動きと全く違う。千峰塵出してくれりゃよかったのに!」 どうやら見破られていたようだ。しかし、相手は女だ。女相手に手合わせしただけでも上等だと自分では思っている。手加減してしまうのは仕方のないことだ。 「奥義を出してたら、お前は間違いなく病院送りになってたぞ」 すると、が近づいて来た。ムッと不機嫌そうな顔をしたままだ。 「虎丸たちが相手なら多少傷をつけることになっても、ちゃんと相手してるじゃないか! 俺が女みたいだから手加減してるんだ伊達は!」 顔を赤くしながら伊達を睨み、思い切り睨んだ後でプイと後を向き、走り去ろうとした。伊達は思わずの手をつかむ。 「離してくれ!」
振り向かずには叫んだ。 「落ち着け」
そう言った。それはに向けた言葉でもあり、自分自身に向けた言葉でもある。伊達はの両肩を持ち、自分の胸から引き離した。そして、彼女を正面から見る。 「俺が貴様のような未熟者に奥義の一つでも出してみろ。病院送りですめばいい。ヘタすりゃ命まで奪いかねない」
とっさに思いついた言い訳を聞かせた。 馬鹿な奴だ。 伊達はの短い髪をくしゃくしゃと撫でた。 しかし奴は誰がどう止めても聞かないだろう。何せ、男装してまでこの世の地獄と呼ばれ恐れられている男塾に入ったのだから。その覚悟は並大抵のものではないはず。 「分かった! もっと上達してみせる!」
は顔をあげて、例の燃えるような目で伊達を睨んだ。
それならば――せめて俺がその馬鹿っぷりを見てやるか。 穏やかな風がさらさらと頬を撫でていた。
手合わせ:終
伊達夢です。少しはラヴっぽくなったかな? あ、まだダメか?! 相手の攻撃をかわし、小柄でうんぬん・・・は、私の好きな男装ヒロインマンガ「風光る」よりパクらせていただきました。 しかし、伊達をダンディーに書けない・・・! きいいー!(←壊れた?) 冬里
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