街を歩いているとやたらと目につくのは、赤と緑の配色にこだわった飾りつけや電灯イルミネーション。にぎやかな音楽に合わせてぴかぴかと光っている。赤い服を着て白ヒゲをつけた男や女が店の前に立ちケーキなどを売り、うかれた恋人同士は人目はばからず腕を組み街を行く。
 国を挙げての祭りのようだ。原色だらけの街をただ一人、モノトーンの男が行く。白い髪に黒い学ラン。背負っている刀が戦国絵巻から抜け出したみたいだ。
 浮かれて騒がしい街を睨みながら、寮に戻る。
 原色の街の中で、もう一点のモノトーンが見えた。
 華奢な姿を長い学ランで包んで一人佇んでいる、その者の名はだった。



イルミネーション

クリスマス企画! 男塾:赤石編



「赤石先輩!」

 先にが声をかけてきた。きれいな顔立ちで、凛とした瞳を赤石に向ける。まっすぐに見つめてくるので調子が狂わされてしまった。は女であることを隠して男塾にいる。それを偶然に知ってしまった赤石は、それ以来、を避けていた。どう接していいのか分からない。今日ここで会ってしまったのも不運だと言えよう。

「こんなところで会うなんて、偶然ですね」

 にこりと微笑んで、何が嬉しいのか近づいて来た。寄るな、と言いたいが言えない。

「貴様こそ、こんなところで何を突っ立っている?」

 やっとのことで聞くと、

「さっきまでバイトしてたんスよ。今、帰りだったんです」

 ぺらぺらと喋り始める。そういうところが、女なんだと思う。男塾にいるのなら、男になりきりたいのなら、せめてもう少し黙れと言いたい。

「バイト終わって、店から出たらイルミネーションがきれいじゃないですか。俺、それ見てぼーっとしてしまって。男塾はクリスマスとか関係ないですからね」

 横に並んで、は歩き出した。これから寮に帰るのだろう。一号生と二号生の寮は近い。一緒に帰るということか。赤石は眉間にしわを寄せた。いつの間にかのペースになっている。

 暗い街に赤や青や黄色のイルミネーションが輝いている中、すれ違うのはカップルばかり。それをいちいち目で追う。何を考えているのか、分からない。腕を組みながら甘い言葉をささやき合っていたカップルを目で追い、また視線を戻そうとすると目が合った。気まずそうに、顔を赤くしながら、うつむく。

「別に、彼女ほしいとか思ってませんから」

 それはそうだ。は女なのだから。しかし奴は奴なりに男を演じている。思えば男でも逃げ出したくなるような男塾に、女の身でありながらいるのだ。かなり辛いものがあるだろう。なぜ男塾に入ったのか、そのいきさつは知らないが、普通の女に戻りたいときもあるのかもしれない。

 くしゅん。

 かわいらしいくしゃみが聞こえた。がしたのだ。見ると、学ランを着ているとは言え寒そうにしている。
 赤石は防寒用にと一応持っていたが使っていないマフラーを上着のポケットから出した。

「つけておけ」

 きょとん、とした目でこちらを見る。そののまなざしに、また調子が狂わされるのを感じながら、マフラーを突き出した。ようやく意味をのみこんで、ありがとうございますと頭を下げてはそれを受け取る。
 するすると首にまきつけ、

「あったかいです」

 とつぶやいた。

「あの、ちゃんと洗濯して返しますから」
「いらん」

 いささか不機嫌そうに聞こえただろうか。赤石はまっすぐ前を見たまま言い捨てた。

「洗濯しないと、汚いですよ」
「返さなくていいと言っている」

 どうせ、つけないだろう。今まで持っていたのが不思議なくらいだ。はまた、ありがとうございます、と礼を言い、

「じゃあ、赤石さんからのクリスマスプレゼントってことでいいですか?」

 などと言う。
 思わず、の方を向いて、立ち止まった。
 いたずらっぽい目をして微笑み、じっと見つめてくる。また、調子が狂う。自分がおかしくなってしまいそうだ。何でも斬ることが出来る斬岩剣も、このままを抱きしめたいという己の心までは斬れない。
 拳に力をこめて、ぐっと耐えた。まっすぐ前を見て、息をゆっくりと吐く。

「勝手にしろ」

 後ろにいるにそう言って、イルミネーションの街をまた歩きはじめる。

 モノトーンの二人は、原色の街の中、一つの塊となっていた。  

イルミネーション:終

 クリスマス限定で書いた夢を改めてアップしました。
 赤石さんは、自分の中では今まで女とあまり接してきたことがないってことになってます。純情なんです。フフーン(←何?!)

       冬里

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