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疾風の彼女

 ロイは部下達と共にスカーが消えた現場に向かおうとしていた。
 ハボックが車を運転し、ホークアイは助手席。ロイは一人、後部座席にいる。
 ズドン。
 建物が壊れる、もの凄い音がした。ハボックは車を止める。
 様子を見るためロイが外に出ると、河の向こう側、レンガ造りの壁に大きな穴が開いて、土煙がもうもうと出ていた。
 風が吹く。
 その風を感じてロイはハッとした。これはもしかして……。
 風が土煙を吹き消していく。そして、穴の開いた建物から人が出てくるのを見た。

「あ、あれは!」

 ハボックが叫ぶ。間違いなかった。
 青い花柄模様のドレスを着て、白く広いつばの帽子をかぶっているお嬢さま然とした女性が、日本刀を持って現れた。

ノエル!!」

 ロイたちは呆然とした。



第七話 悲しみを背負う者 【ロイ・マスタング大佐ドリーム小説書きさんに15のお題】より。お題11.



「まったく、あきれた奴だ」

 ノエルはベッドに座りながらロイの叱責に耐えていた。  お嬢様みたいな格好。それで少しぐらい外に出てもいいかと思って外出し、たまたま暴れてたテロリスト「三本の矢」の連中を見て自分も暴れたくなって一人で鎮圧してみた。それだけなのに。
 運が悪い。
 戦っているところをロイに見られたのだから。

「でも、私がいなきゃ奴らによって殺された家族がいたかもしれないわ」

 ノエルにはテロリストに家族を殺されたという悲惨な過去がある。ロイはそれを知っているので、そのことに異を唱える気はない。

「結果としてノエルは市民を守った。しかし、命令違反だという事実は免れまい」
「いじわる」

 司令部ではそんな口調でロイに反発することなどできない。
 ここでは、たとえロイが軍服を着ていても上官として接するのではなく、ただのロイとして接する。ロイも、ノエルを部下ではなくノエルという女性として扱う。そういう決まりだ。

「なぜ大人しくしていられない?」

 ロイが聞いてきたが、ノエルには答えられなかった。
 うまく答えられない。
 テロリストに復讐して、全滅させて二度とあんな悲劇を起こさせないようにしたい。だから動ける限り動きたい、というのが一つ。
 じっとしていると、忘れたい過去や先の内戦での悲惨さを思い出してやり切れなくなるというのが一つ。
 日本刀、乞食清光がじっとしていると「早く俺を使え」と言ってくるような気がして、それで使いたくなるのが一つ。
 じっとしていたら体がなまって太る、というのが一つ。
 いろんな理由があって、それらが巧みに混じりあっていて。とても説明なんてできない。
 うつむいて黙っていると、ロイは髪をなでてくれた。

「もういい。今日はもう大人しくしているんだ」

 そして去ろうとした。
 ノエルは立ち上がり、ロイの後ろ姿に抱きつく。

「行かないで」

 ロイは振り返り、優しくノエルを抱きしめた。

「今日のノエルは甘えん坊だな」
「お願い、もうちょっとだけいて」

 自分でも信じられないくらい、ロイに行ってほしくなかった。



  「やれやれ。勤務中に部下と愛し合っていたなど知れたら降格だな」

 軍服の乱れを直しながらそうつぶやくロイは、しかしながら余裕たっぷりだ。誰も彼を罰することはない、という自信に満ち溢れている。
 ノエルは裸で横たわったまま、立ち上がろうとするロイを見上げた。胸がどきどきする。

「いつもより激しかったぞ、ノエル」

 ロイはこちらを振り向いた。笑っている。

「軍服姿だったからかな」

 ノエルも笑って答えた。

「ほう」

 ロイは興味深そうな顔を見せたが、すぐに戻した。もう軍人の顔になっている。

「今日の件は追って沙汰があるだろう。それまで引き続き謹慎だ」
「はい」

 もう彼を引き止めることができない。また一人でこれからの数時間を過ごさなくてはいけない。また、外に出て暴れたくなったらどうしようか。

ノエル」

 ロイが出かけようとして、振り向いた。

「謹慎中に大人しくしていたら、褒美をやる」
「ご褒美?」
「ああ。謹慎が解けたら思い切り暴れさせてやろう。だからそれまで力を蓄えておけ」

 その言葉に嬉しくなり、ノエルはベッドから起き上がってロイに飛びついた。
 裸の女と軍服の男が抱き合う姿はとてもシュールだろうか。
 ロイはノエルの唇に軽くキスをし、出て行った。
 後に残されたノエルは、しばらくの間裸のまま部屋の真ん中で立っていた。
 ロイは、自分の悲しみを分かってくれているとノエルは思う。
 悲しみとは家族を殺されたことであり、すぐに暴れたくなる性質でもある。
 ロイはそれを知っていて、危険な時はノエルを止め、それ以外の時はノエルを放ってくれるのだ。今になってそれに気づいたように思う。
 ロイのためを思えば、辛い謹慎も耐えられるかもしれない。
 ノエルはバスルームに向かった。
 時間はたっぷりある。
 とりあえず、シャワーを浴びよう。

第七話 悲しみを背負う者:終
【ロイ・マスタング大佐ドリーム小説書きさんに15のお題】 

 うーん、久々の連載更新で、実は前回から話的に何も進んでないという。問題だなこれは(←他人事?!)
 なんか、私の書くロイさんてエロいんですけど? これはそのうち裏を書きそうだな。どうなんだろう。需要あるかしら。
      冬里

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