疾風の彼女

 刀身に錬成陣を描き終えた刀を見て、はため息をついた。
 刀は銀色の鈍い光を放ってこちらを見ている。まだ使わないのか、まだ斬らないのか。そう問いかけて止まない。
 呪われた日本刀。
 スカーは金属類破壊の術でこの刀を破壊しようとした。しかし、そんなものでは破壊できるわけがない。なぜなら……。
 そこまで考えてはベッドの方を見た。




第六話 レンキンジュツシ
【ロイ・マスタング大佐ドリーム小説書きさんに15のお題】より。お題09.



 謹慎処分を言い渡した男はの気も知らずに寝ている。刀を収めて服を着ようとクローゼットに近づくと、ゴソゴソ音がした。ベッドを見るとロイが起き上がってこちらを見ている。寝起きなのでまだ目は開けきっていない。

「どこへ行く気だ?」
「どこへも? 服を着ようと思っただけ」

 そう答えたが、信じられないとでも言いたいのか、ベッドから下りてこちらに来た。もう寝ぼけ眼ではない。の腕を掴んで、軍にいる時の厳しい表情を見せた。

「いいか、今日から二週間、外出禁止だ」
「ここでは上官でも部下でもないってことになってるじゃない」

 の言葉にロイは掴んでいた腕をはなした。

「今日も仕事?」
「もちろんだ。スカーのことで事後処理が大変だからな」
「こんな忙しい時によく謹慎処分なんて下したわね」

 嫌味ではなく、あきれては言った。
 の処理能力は人の倍くらいはある。彼女無しで二週間も処理していてもそんなに進まないだろう。

「だから私もマジメにやろうと言うのだ。大人しく寝ていろ。まだ早い」

 確かに、時計を見るとまだ六時だった。いろんなことがあって、眠れなかったためにいつもより早く起きていたのだ。はしぶしぶ、ベッドに戻る。着替えはあきらめた。ロイが出てからでもいいだろう。何しろ二週間も時間がある。二週間、刀を持って外を出歩けないのだ。ゆっくり寝たり、家でくつろいだりできる分、刀が振れない。

「体がなまってしまう」

 ベッドに潜り込み、ロイを見上げながらはつぶやいた。

「どうしても運動がしたければ家の中でやれ。とりあえず今日は一日中引きこもっておいてもらう」
「ええ、買い物にも図書館にも行けないの?」
「当たり前だ。どこにスカーが潜んでいるのか分からないからな。買い物は帰りに私がしておく」

 つまり今日もロイが来るというわけだ。もしかすると謹慎中はここに住み着くのかもしれない。それはそれでいいか、とは思う。

「じゃあ、軍部にある本か図書館の本を借りてきて。おもしろそうなの」

 次の査定までに研究を進めておくのも、いいかもしれないと思った。ロイはうなずいて、娘でも見るかのような目での頭をなでた。行ってくる、とつぶやいて行こうとするロイの腕をはつかむ。

「どうした?」

 振り向くロイに、は起き上がってキスをした。唇に軽く当たる程度のキス。

「大人しくしてるから」

 と、伏し目がちになる。長いまつ毛が頬にかかり、白い顔に美妙な影をおとした。ロイはを抱き寄せ、額に口づける。

「すぐに帰る」

 残業はしない宣言をして、ロイは出て行った。テーブルに置いてあったカギがいつの間にかなくなっている。ちゃっかり持って行ったらしい。同じテーブルに置いてある刀を見た。
 乞食清光。呪われた刀だ。
 持ち主をいつも捉えて放さない。はそれを持っておくか、目の届く範囲に置いておかないと落ち着かないのだ。麻薬みたいな効果がある。
 ベッドから下りて、刀の方に近づく。握り、抜き、その刀身を見つめる。
 びっしりと刀身に描きこんだ錬成陣を見て、つくづく自分は錬金術師なのだと思ってしまう。ただ刀を振るだけじゃ物足りない。何かを錬成しながら振らなければ気がすまない。ある意味、今までの乞食清光の持ち主で最も呪われてると言える。
 刀を収め、そっと目を閉じた。
 錬金術師という言葉を何度も頭の中で繰り返す。
 錬金術師、錬金術師、錬金術シ、錬金ジュツシ、錬キンジュツシ、レンキンジュツシ……。
 だんだんと、レンキンジュツシ、という何の意味も含まない記号のように思えてきた。

 それでも、錬金術師なのだ。

 目を開け、はクローゼットに行く。今日は花柄とレースをふんだんに使ったお嬢様系のドレスを着よう。つばの広い帽子を被れば顔は見えないだろう。刀はスカートの中に隠せる。
 着替えてから、バレないように玄関から出ず、窓から外に出る。ルージュを取り出し、窓枠に錬成陣を描いてカギをかけた。

「さて、どこに行こうか」

 軍部の目をくぐりぬけて、独自でスカー探しをしてもいいだろう。とにかく、暴れる場所がほしい。

第六話 レンキンジュツシ:終
【ロイ・マスタング大佐ドリーム小説書きさんに15のお題】
 

 なんか、連載の題を15のお題からとりまくってますね。いいのかこれで・・・?
 個人的にスカー好きなので、もっと絡ませたりしてみたいです。
      冬里

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