非番ラッシュ

 私の非番になると皆の様子がおかしくなるとホークアイ中尉が言う。正確に言うと、非番の前だ、と。
 なるほど、そうなのかも知れないと我ながら思い当たることもあって……。

曹長、明日は非番か」
 ロイ・マスタング大佐に声をかけられた。
「ええ。明日、何かありましたか?」
「いや。残念ながら私は非番ではないのだよ。あ、そうだ」
 と、大佐は手帳を取り出し、パラパラめくる。
「明日の三時以降なら何とかなりそうだが」
「あの、何の話ですか?」
「何って、デートの話だ。この前、おいしい店の話をしたら行きたいと言っていたではないか」
 確かに言った気がする。けど、デートの約束をした覚えはない。
曹長、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。大佐、いいっすか?」
 ハボック少尉が声をかけてきた。大佐はムッとした顔をしながら、後にできないかと言う。
「あの、少尉は仕事の話だと思いますので、私はこれで失礼いたします。この話は、また後ほど」
 大佐に礼をして私はハボック少尉の元に行った。
「何か御用でしょうか?」
「あ、この書類のことで聞きたいんだ。これ、誰のサインが必要なの?」
「この書類は、マスタング大佐管轄ですね。今、行ってきましょうか」
「あ、ああ、いい。いいんだ。後でオレが行く。ところでさ、」
 少尉はタバコを側の灰皿で消した。
「さっき、大佐とはデートの約束をしたの?」
「いいえ、してませんよ」
 少尉はそれを聞いて、安心した、と言ったような顔をした。
「じゃあさ、オレも明日非番なんだけど良かったらどこか行かない?」
「そんな、今は仕事中ですよ? それに、急すぎます」
「もしかして、もう誰かと約束してる? 他に何か用事でもあるの?」
「約束もしてませんし、用事も特にないですけど、今は仕事中ですから。この話は後にしてください」
 私は、「そんなあー」と言う少尉の元を離れた。

「やっと見つけましたぞ!」
 アームストロング少佐がやって来て、私の前に立った。
「明日非番の曹長に、ぜひ喜んでいただきたい! なんと、我輩も無理を言って明日は非番にしていただいた!」
「その話は後で。今は仕事中ですから、少佐」
「さすが曹長。そういうマジメなところが我輩、す、す、好き……」
「失礼いたします」
 早々と、少佐の元を去った。
 こんな感じで、他にもいろんな人に声をかけられた。ホークアイ中尉の言うとおり、みんながおかしい。

 残っていた仕事を片付けるのに手間取って、少し帰るのが遅くなった。司令部の外に出る。
「あっ」
 ありえない光景だった。司令部の門で、大佐や少尉、少佐、他にもいろんな人が私服で群れていた。
曹長が来たぞ!」
 誰かがそう言うと、皆がいっせいに私の方に向かって来た。
「おい、割り込むな、オレが先だ!」
「一番先に声をかけたのは俺だぞ!」
「マスタング大佐は他の女性をあたればいいじゃないか」
「うるさい」
「ええい、こうなったら誰がいいか曹長に決めてもらおうじゃないか」
 誰かが言い出した。皆がそれに賛同し、円を作る。目を閉じて右手を出した。選べと言うのだろう。
「お願いします!」
 皆がそう言うので、私は困った。こんなことになるなら誘われた時に断っておけばよかったのだ。どうしようかと途方に暮れていると、適当にこの場を切り抜けられる案を思いついた。
「あ、あの。私……他に好きな人がいるんです」
「誰?」
 皆が口をそろえて聞く。適当に間を置いてから、言った。
「エルリック兄弟の……」
「あの豆つぶか?!」
「アルフォンス君です」
 適当に恥ずかしがってみる。皆の表情が固まった。
「というわけで、明日はどなたともデートしません。では」
 その場で立ち尽くす皆をおいて、私は日の暮れた道を歩き出した。

非番ラッシュ:終

 すいません、嫌な逆ハーになってまいました。みんな、キャラが違うし。
 元・お礼夢にお名前をつけ加えさせてもらったものです。
      冬里

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