「今日はすぐに帰って来るから」 そうなだめて、今日は非番じゃないのかとふくれるの額にキスをした。 「行ってくる」
いつもは玄関まで見送ってくれるのだが、今日はリビングのソファに座ったまま、ふくれっつらになり、ロイの顔を見ようともしない。
キャンドル・ライトクリスマス企画! 鋼錬:ロイ編
「そういうわけだ、ハボック少尉!」 執務室の中、仕事に忙しい部下の肩を叩き、黒く微笑むロイ。
「わかっているだろう? 今日は大事な日だ。私としては早く帰りたいのだよ」 ロイの背後でハボックは泣き叫んだが、その叫びは虚しくやや寒い室内の空気に溶け込んでしまった。ホークアイはいない。こんな日に限って非番だったりするのだ。 「諦めるしかないですね」 フュリー曹長が少し離れた所からため息をつく。
しかし―― 「マスタング大佐ですか」 暗がりの中、聞き覚えのない声に呼び止められる。街灯の無い所なので相手の顔が見えない。ただ、相手がいるであろうと思える場所が、周りの闇よりも濃いのを認めた。ただならぬ殺気を覚える。 「ああ、そうだが」 発火布で出来た手袋を静かにはめる。こんな日に限って闇討ちに遭うとは。別の日にしてもらいたいものだな。胸の内でぶつぶつ言いながら、構えた。 「イシュヴァールの仇!」
叫びながら光物を抜いた相手は、真っ直ぐロイに向かってきた。刺し違えてでもロイを倒す気でいるらしい。イシュヴァールの生き残りらしき者にはよく狙われるが、何度そんな目に遭っても、真っ直ぐこちらに向かって来る相手に慣れることが出来ない。家族や友人、その他あらゆる仲間を殺された恨みを一身に背負っているのだ。 「すまんが、急いでいる。別の日にしてくれ」 びゅんびゅんと攻撃を空振る相手にそう告げ、ロイは走ってその場を逃れようとした。 「逃がすか!」 よく聞くと、まだ幼さの残る声だ。鋼のと同じ年頃だろう。そう思った時、わずかに避け損ねて右上腕部に刃物が走った。傷は浅いが、血が腕を伝って流れ落ちる。傷口を抑えて、ロイはそのまま走り逃げた。
「早く帰るって言ったのに……って、血?!」 は顔を青くし、急いでロイを家の中に入れた。リビングのソファに座らせ、救急箱を取りに行く。
「……相手、強かったのね?」 は少し涙ぐみながら戻り、手当てを始めた。傷が出血の割りに浅いのを知ってか、顔色が元に戻る。
「偉そうに、血なんか流して。びっくりしたんだから」
ダイニングを見る。 「……とんだイヴだ」 ため息混じりにつぶやくと、が抱きついてきた。 「無事でよかった」 心の底からそう言っているようだ。愛しい思いが溢れてきそうなほど湧き出てきたので、ロイはを強く抱きしめた。 「あ、そうだ、いいこと思いついた」 急にどうしたのか、はロイから離れ、立ち上がって部屋中の電気を消しはじめた。
「何をするんだ?」
そう言われてみればそうだ。攻撃しようとはめたものの、結局使わずにそのまま帰ってきたのだった。
「ロイ、火つけて」 そう言いつつ、パチン、と指を鳴らすように発火布を摩擦させて炎を作り出した。それをそのまま指先にとどめておく。真っ赤な炎はゆらゆらと宙に浮き、ロイとの顔を照らした。 「きれい」
目を輝かせながら、その炎に見惚れる。
キャンドルライトのように輝く自分の出した炎。その先にあるの顔。 「どうしたの、ロイ?」 不思議そうに尋ねるを抱き寄せ、その唇にそっとキスをした。
キャンドル・ライト:終
クリスマスのために書いたドリーム、ロイ編でした。 なんか、わがままなヒロインですみません。でも、そんなところにもロイさんは惚れこんでるってことで……。(←何?!) 冬里
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