かえり道

リレー小説企画! 第一話



 今日の練習が終わった。もう夕日は校舎の向こうがわに沈んでしまって、辺りが薄暗くなり始めている。
 片付けも終わって、着替えも終わって。さて、帰ろう。
 女子更衣室から部室に移動する。ドアを開けて、

「勇二! 帰ろっ!」

 勇二はちょうどバッグを持って立ち上がったところだった。こちらを見てうなずく。

、勇二、またなー!」

 弾平くんが大事なボールを磨くのを中断して手を振ってくれた。珍念くんも、尾崎キャプテンも、みさとも口々に「また明日!」とか「気をつけて帰ってね」などと挨拶をしてくれる。

「みんな、また明日ねー!」

 勇二と一緒にドアを出る時、皆に手を振って別れた。
 最後にもう一度だけ部室内を見渡す。そこには勇一さんがいなかった。
 いつもならここで勇一さんが「待て、俺も一緒に帰る」なんて言って割り込んでくるんだけど、今日は先に帰ったのかな?
 みさとが勇一さんに「たまには二人きりにさせてあげて下さい」とか何とか言ってくれたんだろうか。だったら、明日みさとにお礼を言わなきゃ。
 何だか嬉しくなってきて、ニヤニヤ笑いながら部室のドアを閉めた。
 そして勇二と二人きりで歩く。こうして歩くの、かなり久しぶり。
 いつもは勇一さんが貴重な二人きりの帰宅タイムに割り込んでくるから。でも、今日はお邪魔虫がいない。

「どうした? さっきからニヤニヤしてるぞ」

 校門から出た時、勇二に聞かれた。

「そりゃ、こうやって二人きりで帰るのが久しぶりだし!」

 言うと、勇二は少しだけ寂しそうな顔をした。そして、

「兄貴のやつ、先帰るってよ。用があるわけでもないのに」

 やっぱり気を利かせてくれたんだ、勇一さん。なのに、それに気づかないなんて勇二は鈍感すぎる!
 勇一さんとは兄弟で、いつも一緒。だからたまに帰りが別になっても構わないじゃない。なのに、どうしてそんな寂しそうにしてるんだろう。

「勇二!」

 キッと彼を睨んでやった。怒ってます、というような顔を一生懸命つくって。でも勇二は、のんびりした調子だ。

「どうした?」
「あのね、勇二。久しぶりに二人っきりで帰れるんだよ? 勇二は嬉しくないの?」

 言ってから、ちょっとキツく言い過ぎたかなと思って、

「私は、嬉しいんだけど」

 とつけ加えた。それから恥かしくなって、勇二の顔をまともに見れずにうつむく。
 本当なら貴重な二人きりの時間をこんなことで潰したくないのに。ああ、やっちゃった。どうしていつも、こうなんだろう。思っていることをすぐに言ってしまう。

「俺も、嬉しい」

 勇二がぽつりと言った。
 ほんとに、小声で。

「今、何て?」

 勇二に顔を近づけて聞いてみると、思い切り顔をそむけられた。恥かしがってるのかな、と思ったのも束の間。勇二が手を握ってきた。
 そのまま、手をつないで帰る。
 すごく、嬉しい。



「また明日な」

 家まで送ってくれて、勇二は帰ろうとした。
 もうちょっと二人でいたいのに、どうして帰り道はこんなに短いんだろう。

「待って、勇二」

 用事もないのに呼び止めた。
 勇二は立ち止まって、こちらを振り向く。
 呼び止めた理由を探すのが大変だ。どうしようか。
 考えたが、すぐに言いたいことが浮かんできた。

「そうだ、今度の日曜は練習休みでしょ? 一緒にどこか行かない?」

 ここのところ練習ばかりで、デートしていない。たまには二人きりでどこかに行きたい。遊園地でも、映画でも、どこでも。勇二と一緒ならどこでもいい。

「今度の日曜……悪い!」

 勇二は頭を下げた。
 その意外な行動にびっくりしていると、

「その日は火浦さんと約束があるんだ。すまない!」
「ひ、火浦さんと? なんで?」

 聞いたけれど、答えは返ってこなかった。また明日な、と言って勇二は暗くなった道の向こうに走り去って行く。
 それをぼんやり見送りながら、気づけば口を開けてぽかんとしていた。
 火浦さんと約束? だから無理?

「何よ、それ!」

 文句を言う相手はもう行ってしまった。
 行き場を失った言葉は、人通りの少ない道に虚しく響いた。

かえり道:終

 はい、というわけで(?) 千凛さんとのリレー小説、第一話目でした。
 リレー小説って初めてなのでドキドキもんです。
 ではでは、お次は千凛さんにバトンタッチ!!
      冬里

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