宇佐美がボックスに来ると、そこにが一人でイスに座り、ドッジボールマガジンを読んでいた。暇なので読んでいる、というわけではなさそうだ。食い入るようにして読んでいる。 「おっす、」 声をかけて初めて、は宇佐美に気がついた。
「なんでそう真剣に読んでるんだ?」
そう言うの顔に元気はなさそうだ。どうしたんだろう、と宇佐美は心配になる。
宇佐美の憂鬱嵐連載、番外編
普通、偶然とは言え雑誌に自分の写真が載っているということは嬉しいものじゃないのだろうか。でも、目の前のマネージャーは口を尖らせながら、肖像権の侵害だとぶつぶつ言っている。 「宇佐美、来てたのならさっさと着替えて来い」
更衣室から嵐が出てきた。今日は九ノ助も一緒である。
「も、雑誌読んでないでさっさと用意しろ」
が雑誌を指したので嵐はのイスに近づき、机に広げてある雑誌を見た。
と初めて会って、いきなり頭を撫でられたりして驚いたが、しかし宇佐美は一目見てを好きになった。
「俺の方から出版社に言っておこう」
二人が雑誌について話し合っていた。何だか仲間はずれになったみたいだ。宇佐美は二人から少し離れたイスに座り、クツ紐を結びなおした。 「宇佐美くん、考えこんじゃって、どうしたの?」
頭を撫でられる感触がした。 「なんでもない」
気がつくと、メンバーが集まりはじめていた。そろそろコートに出なければ。
練習に打ち込んでいると、ボックスでの憂鬱な気分も晴れた。さわやかな気分で練習を終えて、からのタオルを受け取る。 「お疲れ、宇佐美くん」 にっこり微笑む。その笑顔を見て何だか嬉しくなった。しかし、同時に笑顔を安売りしすぎじゃないかと心配になる。
「ねえ、」 うっかり呼びかけてみたものの、何を言っていいか分からない。笑顔を安売りするななんて、すぐに言えるわけがないじゃないか。
「なんでもないんだけど、」 なおも自分のことを気にかけているを見て、胸がどきどきした。こうなれば、言ってやろう。
「は嵐さんのこと、好きなのか?」 言ってみて、自分が言ったことに驚いた。何を言っているんだ。幸い、周りに人は少なく、噂の本人はボックスに帰った後だった。
「急に、どうしたの?」 自分でも顔が赤くなっている気がする。その場を離れようとすると、が頭を撫でてきた。
「今日の宇佐美くん、様子が変。何かあったの?」
え。宇佐美の思考が一瞬、停止した。 「もちろん、宇佐美くんも、みんなも、好きよ」
ああ、そういうことか。 「俺は、のことが好きなのに」
つい、口に出た言葉にまた、自分で驚く。
「なんでもない」
気がつくと、コートにいるいるのは少数だ。宇佐美はうなずき、ボックスに向かって走った。
帰り。 「嵐さん、いいよなあ。ちゃんと家が近くて」 緒方がぼやく。高山以外の皆がそれに同意した。 「でも、嵐さんがちゃんを狙ってたら、勝てそうにないな」 服部のぼやきにも皆がうなずく。高山と、宇佐美を除いて。
『宇佐美の憂鬱』:終
ちょっとわき道にそれて、宇佐美夢でした。 たまにはこうやって本筋から離れるのもいいかも、とか思いました。 次回こそ、荒崎侵入です。 冬里
感想などがあれば一言どうぞ。拍手ワンクリックだけでも嬉しいです。↓ |