転校して早くも一週間が経った。 「おはよう」 朝、教室で挨拶をすると男子のほとんどが一斉にこちらを向いて礼をし、 「おはようございます」
と体育会系の挨拶をする。女子は普通におはよう、と軽く挨拶をするだけだが……。こんな反応されるようになったのも、陸王がキャプテンを務めるクラブに入ったからだ。
喧嘩上等
授業中か休み時間に陸王に聞いてみようと思ったが、そういう時に限って陸王は来ていなかった。病気で休みなのか。授業中と休み時間の区別がつかないこの学校のこと、サボってどこかにいてもおかしくはない。
陸王が教室に入ってきたのは休み時間になってからだ。いつも騒がしい教室が、陸王の登場でしん、と静まる。やがて、男子たちが揃って「おはようございます、陸王さん」と挨拶した。同学年の人たちに、さん付けで呼ばれている。恐れられているのだ。 「よお」 また挨拶される。とりあえず「おはよう」と返した。そして、疑問であったことを聞いてみようとする。しかし、陸王はあくびをして机に突っ伏した。すぐに規則正しい健康的な寝息が聞こえる。無理に起こす気もなく、はあきらめた。
「ごめん、驚かせたかな?」 黙っていると怖いが、喋ると意外に優しいのがこの二人だ。まだどちらが剛か拳か見分けがつかないが、もう少ししたら仲良くなれるのかもしれない。 「何も聞いてないよ?」 答えると、二人は互いに顔を見合わせた。
「女の子だから、危険だよな」 何か謎めいたことを言っている。とりあえずはグランドに向かった。二人も後からついて来る。着くと、陸王や他のメンバーがそろっていた。 「よお。来たな」 陸王は座っていた鉄棒から下り、皆の前に立った。たちも急いでそろっている所に合流する。 「中学校のやつらが今日、来ることになった」 以外の全員がおお、と気合いを入れる。 「まあ、いつもの練習だと思ってやれば勝てる。返り討ちにしてやろうぜ!」 何のことか分からないが、中学生を相手にした試合でもするのかとは予想した。ならば今日でこのクラブが何のクラブなのかが分かる。 「陸王さん、ちゃんはどうします? 帰しますか?」 拳か剛かどちらかが質問をした。そうだなあ、と悩む陸王には手をあげて、 「見学したい」
と言った。全員がこちらを向く。何かまずいことでも言ったかと思ったが、陸王がうなずいて「いいだろう」と言ったのでそういうことになった。
やってきたのは、丈の長い学ランにリーゼント、手には木刀といった怖い中学生たちだった。 「は安全なところに避難しておけ」
陸王にそう言われてバックネットの裏に移動した。他の人たちはグランドの真ん中を独占して、やって来た中学生と向き合った。何かタンカを切ったりしているのを聞いて、これは試合などではないと悟る。 「ほら、歩けよ!」 乱暴な声がし、そのままグランドの中央へと連れて行かれた。陸王たちが事の異常さに気がついてこちらを見る。 「さっきから大将がいないと思ったら……」 陸王は眉をひそめた。すると、後ろで自分にナイフを突きつけているのは、中学生のリーダーなのか。は目の前が真っ暗になりそうだった。
「いいか。負けを認めろ。でないと、この子が痛いめをみることになるぜ」
こちらに向かって来ようとした陸王にそう言い、中学生はにナイフを押し付けた。切っ先が軽く頬にあたる。
「わかった、を離してくれ。その代わり……」 負けを認めようとした陸王をは止めた。全員が、驚いてこちらを見る。大人しそうながそんなことを言ったのが意外なのだろう。 「何を言うこのアマ!」 ナイフをさらに突きつけようとしてきた相手のみぞおちを、肘で思い切り打った。相手は一瞬、息が止まり、の首に巻きつけている腕を緩めた。そこでは中学生から離れ、振り返って相手を睨んだ。図体のでかい男が胸を抑えて苦しみもがいている。四角く広い顔に細い目をしていて、顔だけ見ていれば強そうに見える。やがて男はナイフを持ち直してこちらを向いた。は構える。 「このアマ!」
向かってきた相手の顔面に、拳をめり込ませた。正拳突きだ。相手は飛ばされ、地面にドサリと倒れた。
「す、すげえよさん」
さん? そして敬語? 「まさか、こんなに強いとは思わなかったぜ」 ふっ、と笑って陸王はの髪を撫でた。
「あ、いや、強くないよ。今のはまぐれだし」 見つめられながらそう言われて、思わず顔を赤くしてしまった。どういう意味だろう、と思いつつもはとりあえず、うなずいた。 「よし、じゃあ今から練習だ」
陸王の呼びかけに、おう、と皆が返事する。
空を見ると、白い雲があちらこちらにプカプカ浮かんで流れていた。
第2話:喧嘩上等/終
ああ、実は強いヒロインを書いてみたかったのです。 これでどんな風にラヴ発展していくのか疑問ですが、まあ頑張りますです。 漢な陸王さんを書けたらいいなあ。 冬里
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