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「やっと決まったわね。じゃあ、行ってらっしゃい!」
みさとが私の背中を押した。おそるおそる、私はペアの顔を見上げる。
肝試し 陸王編「行こうか」
懐中電灯を手にして陸王は七重に言った。七重はうなずく。 「七重……」 陸王が話し掛けてきたので静寂が壊れた。返事しようと陸王の方を振り向く。そのとたん、七重は自分のつま先、スニーカーの上を何かが這っているのに気がついた。 「きゃっ」 その感触に驚いて小さく叫ぶ。 「どうした?」 陸王が歩を止めた。七重は懐中電灯の光で自分の足下をよく見てみる。七重のつま先。そこには一匹のヘビがいた。 「きゃあああ、ヘビ!」 思わずそばにいた陸王の太い腕にしがみつく。 「なんだ、七重はヘビが嫌いだったのか」 意外だ、と陸王は言った。
「怖いものなんてねえと思ってたぜ」 つま先を這うヘビを追い払うこともできないほど足を硬直させ、しかし手だけは陸王の腕をさらに強く掴んでいた。 「仕方ねえな」
と陸王はつぶやいた。 「これでヘビが来ても平気だろ」
片腕で七重を軽々と抱きかかえ、もう一つの手に懐中電灯を持って歩き始めた。道端を這うヘビをまたぎ、ゆうゆうと歩いていく。 あっという間に目的地の神社に着いた。ヘビも来ないであろう境内にまで来ると、さすがに七重は今の状態が恥かしくなってきた。 「ごめんね、重いでしょ? そろそろ下りるわ」
確か神社に敷き詰めてある石を取って帰らなければならなかった。陸王は黙って七重を下ろした。 「もう帰ろう」
さっきはヘビが怖くて、陸王に抱きかかえられた時はヘビから逃れられると安心していた。しかし今となっては本当に先ほどの行動が恥かしい。 「七重、怖いのか?」
陸王は何事もなかったかのように、七重をからかってみせた。 ほんと、恥かしい。
穴があったら入りたいぐらいだ。だから、早く皆の待っているところに戻りたい。これ以上陸王と二人きりだと、また何かの拍子に恥かしい行動に出てしまいそうだ。 「上を見てみろよ」 陸王がふいに言った。七重は言われた通りに夜空を見上げた。 「きれい」
空は澄み切っていて、星がきれいに見える。 「普段はこんなにきれいに見えないんだけどな……」 七重がつぶやく。 「ああ。普段は地上の方が明るいからだ」 だから星がきれいに瞬いていても、誰も気づかないんだと陸王は言う。 「肝試しだと思うと怖いが、俺と七重の二人で星を見に来たと思えば、怖くないだろう?」
そう言われて、七重はうなずいた。
「星を見ながらでいいから、聞いてほしいんだけどよ」 七重は星から目を離さないまま、耳だけは陸王に集中させた。 「お前のことが好きだ」 まるで星の名前を言うみたいに、さりげなく陸王は言った。 「え?」 自分の耳が信じられずに、七重は陸王の方を向いた。陸王は七重を見ていた。目が合う。 「本当はこんな肝試しの時じゃなく、もっと別の場で言いたかったんだが……」
陸王は鼻の頭を人差し指でこすった。
「さっき七重が抱きついて来た時に、ここで言おうと決めた」 信じられなかった。これは夢だろうか。七重は自分の手をぎゅっとつねってみた。もちろん、痛い。夢ではないみたいだ。 「今返事しろとは言わない。気が向いた時にでもしてくれ」 七重は、陸王の言うとことにうなずくしかなかった。
やっぱり、優しいんだな。
そんな陸王に告白された。今になって、嬉しさがじわじわと湧き出てくる。 「どうしたの七重? ニヤニヤ笑っちゃって」 戻ってから神社の石をみさとに渡すと、みさとは七重の顔を見て不思議に思っていた。もっと怯えながら帰ってくると思っていたのに、七重は笑っている。それがおかしかったのだろう。
「何かあったの?」
と答えたものの、みさとには後でこっそり教えようと思った。肝試しであったことを。その前に、やることがある。 どうやって答えを言おうか……。
部屋に戻った後か、それとも試合の前か、後か。そして、何と言おうか。七重は心地良い緊張感に少しだけ酔いしれた。
肝試し 陸王編:終
「肝試し」陸王さん編でした。肝試しって、暗がりで二人きりっていうめっちゃオイシイシチュエーションですよね。ビバ!若者! あとは嵐さん、大河さま、勇二くん編です。がんばります! 冬里
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