三日待ってくれ、と昨日は答えた。なぜ三日という日数なのかは自分でもよく分からない。 が自分のことを好きだと言った。 そのことが未だに信じられなくて、火浦はあまり眠ることができなかった。 今日はどういう顔をすればいい? が迎えに来るまでの間、ずっとそればかり考えていた。お互い意識してしまって、いつも通り会話することもままならなかったら、どうしようか。 「おはよ、高志!」 しかし迎えに来たは、いつも通りの態度だった。それで火浦は安心する。 「おはよう」
今日も日光がまぶしかった。
第九話 ラインクロスドッジ弾平ファンの皆さんへ10のお題より
火浦と別れて教室に入る。その途端、はぐったりした。いつも通りにふるまえたことで安心して気が抜けたのだ。 ほんと、ありえない。
は苦笑した。終わってしまえば昨日のことなんか些細なことのような気がする。そして今の悩みは、火浦の答えが聞けるまでの三日間をどう過ごすか、だ。 「昨日はありがとう」 礼を言う。
「ああ。ちゃんと言えたか?」 笑いながら答えると、藤堂は「そうか」と言って授業の用意をし始めた。もっと何か言ってくれるかと待っていたが、それきり何もない。仕方なくもバッグから教科書などを取り出した。
「入らないのか、?」 キャプテンの三笠がいつの間にか横にいた。
「キャプテン!」
三笠はやれやれ、といった風にの代わりにドアノブを握り、ドアを開けた。 「先に行くぜ」
火浦がさっさと部室を出てしまい、と三笠が部室に取り残された。いつもは四天王とキャプテンが全員揃ってから外に出るのに。どうやら火浦も相手にどう振舞えばいいのか分からないのだろう。 「何かあったのか?」 三笠のように洞察力の鋭い者じゃなくても、今の様子で何か察するのが普通だ。は観念して、正直に話すことにした。
「実は昨日、火浦くんに告白したの。で、答えは『三日間待ってくれ』だったのよ」 そう言われるとミもフタもない。しかし、が告白したというカミングアウトに三笠はあまりリアクションがない。むしろノー・リアクションだ。
「もしかして私が火浦くん好きって、気づいてた?」 そうでしたか、とは頭を下げた。このキャプテンには本当にかなわない。
「とにかく、何があっても火浦とは普通に振舞え。でないとマネージャーの仕事に差し障るだろう」 なら従わざるを得ない。とにかくあと二日ではっきりするのだから、それまで頑張ろうとは思った。
練習が終わった。 「で、弾平くんたらね……」
笑いながら今日あったことを報告し合う。たいていの場合、笑い話であったり、ちょっとした愚痴であったり。 付き合ったら、何がどう変わるのだ?
ということだ。火浦にはいまいち、付き合うということがどういうことなのか分からない。友達の話によれば、付き合えば土日にデートして、毎日一緒に登下校して、電話して……。デートはしていないが、他はもうとやっていることだ。デートじゃなくても、練習が休みの日にはがクッキーなどを作って家に来る。これは小さい頃から続いてきた習慣だ。 「遅いじゃないか! 30分も待ったぞ!!」 叶だった。そして、なぜかキレている。 「誰も呼び出してないし!」
さすが妹分だけあって、大先輩に向かって速攻でつっこむ。 「お久しぶりです、叶さん」 すると、叶は闘争心むき出しの鋭い目でこちらを睨んできた。
「久しぶりだな、火浦。貴様に用があって来た」 てっきりに用があって来たのだと思っていたので驚く。卒業して以来会ったことのない先輩だ。急に何の用なのだろう。 「火浦! 貴様はを愛してるのか?!」 突然の言葉に、火浦は固まった。 「さあ、答えろ!」
ぐんぐん火浦に詰め寄り、恐ろしい顔で睨んでくる。 「叶さん、やめて!」 が叶と火浦の間を割って出た。
「余計なこと、しないで下さい」 には優しく、甘い口調で言う。暗いのでよく見えないが、とろんと溶けそうなだらしない表情だというのは間違いない。そして今度は、に見せた顔とは全く違う、恐ろしい表情で火浦を見てきた。顔も恐ろしいが、自分ととでこうも態度を変えられるこの男の方が恐ろしい。 「さあ、どうなんだ? 貴様がはっきりしないと俺は困る!」 と言われても、こっちとしては叶が困ろうが何も関係ないのだ。それに、に告白されてどうしようか迷っている。急に答えを出せと言われても分からない。 「火浦、俺は小学校の時から今までずっとを見てきたし、好きだった。なのにはお前が好きだと言う」
は叶にそう言ったのか、と火浦は意外に思う。
「叶さん、の気持ちを考えてください」 どうしても火浦に告白の答えを言わせたいらしい。なんて強引な男だろう。 「わかった。もういい、火浦」 しばらくして、叶がつぶやいた。そして、に近づいてその両肩をつかむ。 「。見ただろう? 火浦はあんな様子だ。もうあきらめろ、な?」 子どもをなだめるかのように言う。なんだか無性に腹が立ってきた。自分の何がどんな様子だと言うのだ。そもそも、呼び出してもいないのにここに来て、自分との間に割り込んで、デリカシーの欠片もないことを言って、を困らせて……。 何があきらめろ、だ?
火浦は拳をにぎりしめた。 「は、俺のものですから」
自分で言ってから顔が赤くなる。何を言ってるんだ。 「それがお前の気持ちなんだな? なら俺は手を引くしかあるまい」 ハハハ、と声に出して笑った。そして踵を返し、何も言わずに去って行った。こちらに後ろ姿を見せたまま手を振って……。
何が何だか分からなかった。 「ねえ、今の……」
言葉の意味を聞こうとした。俺のもの、って? どういうことだろう。 「高志?」 驚いた。しかし、すぐに手をつないできたんだと気づく。 「もう暗いから、急ぐぞ」
手をつないだまま早歩きで進んだ。は火浦の顔を見る。その横顔は、暗いところで見てもそれと分かるほど赤くなっていた。
第九話 ラインクロス:終
もっと、叶登場あたりからの火浦さんマインドを書きたかったんですが、あきらめます。 ということで、次回は最終回。どんなラストになるか、私にも分かりません!(←オイ!) お楽しみに! 冬里
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