図書館から出ると、雨が降っていた。天気予報は晴れだって言ってたのに。
こういう時に限って、あたしは自転車で来ていた。この雨の中、自転車に乗って帰るのかと思うと憂鬱だ。夕立なら、このままここで雨宿りしていようか。
コンクリートを打ち付ける雨。ウォータークラウンが出来ては消えるのを眺めながら図書館の屋根の下で立っている。なんかみじめ。
「駐輪場の自転車、きみの?」
レインコートの警備員らしいおじさんが近づいて来て、あたしに聞いた。たぶん、あたしのだろう。うなずくと、
「自転車そのまま置いておくならいいけど、乗って帰るんだったら、もう駐輪所閉めるから」
この雨の中、自転車に乗って帰れと言う。自転車を置いて帰ると、後日にわざわざ、家から離れたこの図書館まで歩いて来ないといけない。それはいやだ。仕方がないので自転車で雨の中を帰ることにする。
「あー、キモい」
大雨の中、自転車をこいでいると何が何だか分からなくなる。服はびしょびしょ。クツの中も、髪も、何もかもびしょびしょ。もう、こうなってくるとどうでもよくなる。
道の横を、自動車が通りかかった。何という車か忘れたけど、黒光りのする高級車だ。中に乗ってる人と交代したいと思った時、その車は前の方で止まった。通り過ぎようとすると、窓から呼ぶ声がする。あたしも止まった。
聖アローズ学園、闘球部キャプテンの二階堂大河だ。
「七重ちゃんじゃないか。こんな雨の中、どうしたんだい?」
「いろいろあってね」
一から説明するのが面倒なのでそう答える。
「乗って行かない?」
「自転車があるから」
「そこに置いとけばいいよ。家にある自転車、どれでも好きなのあげるよ」
すごい金持ちなんだなあと思う。けど、この自転車は両親が誕生日に買ってくれた思い出あるやつなので、あたしは断った。
「でも、このままだと風邪をひく」
「いいよ、もう」
そうやって立ち話している間にも雨は降っているわけだから。あたしは大河にバイバイと言って自転車のペダルをふんだ。
雨はやみそうにない。最悪。
海岸沿いの道路を走っていると、前からランニング中の集団がやって来た。ユニフォームからして、ブラック・アーマーズの一軍だと分かった。こんな雨の中も走ってるのか。自転車に乗ってるあたしはマシな方だな、と思う。
B・Aの連中が近づいて来て、先頭にいた御堂嵐があたしに気づいて立ち止まった。あたしも、止まる。
「七重じゃねえか。どうした、こんな雨の中で。風邪ひくだろ?」
「あんたたちだって、ランニングしてるじゃない」
「オレたちは鍛えてるからいいんだ。風邪ひいたら寝込んでしまうだろ。ほらっ」
嵐が首にかけていたタオルをこっちに投げてきた。
「何もないよりはマシだろ。早くとばして帰れよ」
と言い残して、あたしとすれ違って走って行った。手にした、嵐の微妙に濡れたタオルをどうしたものか。仕方なく、頭に被せてちょっと下で結んで、また自転車をこいだ。
雨はやまない。もう、どこかで雨宿りして休みたい。
どこか休めそうな建物は、と探していると、出てきたのは荒崎小だ。よりによって、そこか。けど、選んでいる場合ではない。
ラクガキだらけの壁に沿って、校門まで行く。雨なのでガラの悪い人に見つからずにすんだ。大胆にも自転車を校門の中に入れ、玄関のそばに持っていく。玄関で、やっと一息つくことができた。頭のタオルはびしょびしょだったが、それでも、しぼれば使えないことはない。
「よお、七重! こんな所まで来てどうした?」
背後で声がしたので、振り返ると陸王冬馬がいた。今日はいろんな人に会うなあ、と思う。今は荒崎小なので陸王に会うのは不思議ではないけど。
「途中で雨にあって……。近くを通ったから、雨宿り」
「悪名高い荒崎小で、たいしたもんだ。そのタオルは?」
陸王がタオルに「A・M」と書いてあるのを指した。途中で嵐に会ったことを言うと、陸王は複雑な表情をした。
「それより、こっちの方が乾いてる」
バッグから取り出したタオルで、陸王はあたしの頭をふいた。そして、バッグに戻し、
「オレはこれから帰るところだが、一緒に入っていくか?」
と、持っていたカサを見せた。相合傘には少し抵抗がある。
「いいよ」
断ったら、陸王はカサをあたしに渡して、
「カサはいつでもいいから」
と言って自分は雨の中を走って行った。
なんだか、悪いことをしたな。
自転車をひいて、カサをさして帰った。途中で、雨がやんできた。明るい日差しがまぶしくなる。
自転車についた水滴が太陽を浴びてキラキラ光っていて、ちょっと嬉しかった。
終
元・拍手お礼夢にお名前をちょこちょこと入れたものです。大河、嵐、陸王にモテモテ夢らしきものでした。大河様の扱いが酷い・・・。 冬里
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