サンタさんが来るって信じていたのは小さい頃だけ。本当はお父さんがプレゼントをくつしたに入れてたんだ、って分かってからなんだかクリスマスが寂しくなった。
 冬の空はどことなく曇っていて、かといって天気予報は雪になるとは言っていない。このままどんよりと曇ったままなのか、雨が降るのか分からないままだ。
 今年のプレゼントは電子辞書だろうな。
 前にお父さんに何が欲しいか聞かれて、そう答えたから。電子辞書は欲しいけど、プレゼントの包みを、何かなあ、なんて考えながら開けるのが楽しいのに。

 ふっ、とため息をついて、家路を辿った。
 今日はクリスマスイヴ。
 今年も、何事もなく過ぎることだろう。



サンタクロースが来る日





 家がだんだん見えてきたとき、道をふさいでいる赤い髪の人に出くわした。

 赤い長髪、背が高くて、がっしりと筋肉のついた体型は目立つので誰だかすぐに分かる。陸王くんだ。隣のクラスだが、その存在は全校生徒に知れ渡っている。闘球部のキャプテンで、ケンカが強いので、みんなに恐れられている、といったところだろう。
 あたしは、ひょんなことから陸王くんと個人的に仲良くなった。
 荒崎小の中でも至って平凡なあたしが、不良連中の親玉的存在の陸王くんとどうやって知り合ったのかは、話すと長くなるので省略。

 さて、その陸王くんをよく見ると、なんと、バイクを横にひいている。これには驚いた。小学生なのに、バイクだ。陸王くんはあたしに気づくと手を振った。

「よお」
「陸王くん、そのバイクどうしたの?」

 聞くと、ああこれか? とバイクのボディをなでた。赤を主に使ったボディで、そこに白で稲妻型が走っている。小さい文字でHONDAと書いてあるのが見えた。

「兄貴からパクってきた」
「パクって……?」
「ああ。を待ってたところだ、乗れよ」

 慣れているのか、ひらりとバイクにまたがり、あたしに手ヘルメットを差し出した。

「どこに行くの?」
「行ってからのお楽しみだ」

 そう言って軽く笑う。陸王くんを見ていると何だか興味がわいてきた。どうせ今日の予定は無いのだし、ついて行ってみようか。
 あたしはヘルメットを受け取り、かぶった。サイズが合わないのでグラグラするが、なんとかもたせる。視界が狭くなったので何だか変な感じだ。陸王くんが手を差し伸べたのでそれを取り、ひょい、と乗った。

「行くぜ!」

 エンジンがかかる。振動がし、そしてバイクは走り出した。家の前を通った時、親に心の中で謝る。まさかわが子が無免許運転している友人のバイクに乗っているとは思っていないだろう。
 陸王くんはヘルメット無しだ。無免許で、ヘルメット無しで、警察に捕まらないだろうかと今さら不安になる。

「しっかりつかまってろよ」

 線路脇で電車と競争しながら、陸王くんは声をかけた。とても無免許とは思えない運転だ。見た目も小学生とは思えないし、もしかすると警察も見逃してくれるかも。などと思っているうちにバイクは田舎道を通り、丘の上に着いた。
 見晴台でバイクを止め、ひらりと優雅な動作で陸王くんは降りた。あたしも続いて、降りる。ヘルメットを取ると、顔が外の冷たい空気に触れて心地良かった。視界も一気に広くなる。

「うわあ、きれい」

 さっきまでいた町がミニチュアのように見える。それに、冬のためもう夕日がさしかかった海がきらきら光っていた。

「冷たそうな空の中で、あの夕日は燃えているだろう?」
「うん」

 確かに、冬の冷たい空を熱しようとするかのように、一人で太陽は輝いていた。

「きれい」

 もう一度、そう言う。他に言葉が思いつかないほどボキャブラリーが乏しいのが悔しいけれど。
 ふいに、陸王くんがあたしの肩に手を回してきた。そして、そのまま抱き寄せられて、心臓がドキドキした。急に何をするのだろう。

「どうしたの、急に?」

 陸王くんの顔を見上げる。彼の顔は、真剣だった。燃えるような赤い髪は、夕日と似ている。どういうわけか、あたしの顔は火照りだした。たぶん、顔が真っ赤だろう。そんな顔を見られたら恥ずかしいので、顔を伏せようとする。

 あごに優しく触れられ、くいっと上に向けさせられた。再び、陸王くんの顔が見える。鋭い瞳が間近だ。それが、さらに近づいて来る。
 唇に、柔らかい感触がしたのはその後だ。

「ん?」

 自分に起こったことに気づく。しかし陸王くんはすぐにあたしから離れた。

「ちょっと、あたし……」
「嫌だったか?」

 また、その真剣な顔で聞かれる。恥ずかしくなった。
 陸王くんの顔が凛々しくて、かっこいいからだ。

「嫌だったのなら、謝る」
「謝るなんて、そんな……」

 たぶん、あたしの顔はゆでダコみたいに真っ赤だ。何て言っていいのか分からなくて、気がついたら必死に首を振っていた。嫌じゃない、って言いたかったのだと思う。

「嫌じゃないんだな?」

 優しい口調で、聞いてくる。髪を撫でられる感触がした。あたしは、うん、とうなずいた。

「そうか」

 太い腕で抱きしめられる。ぱふっ、と陸王くんのたくましい胸に顔があたった。

 まさか、こんなことになるなんて。

 嬉しさより、驚きの方が大きい。どうしてだろう。今日は、クリスマスイヴで、それは去年までとあまり変わらないものだったはずで。
 もぞもぞと首を動かして陸王くんの顔を間近で見上げようとした。けれど、きつく抱きしめられていたので思うように首が動かせずに、見えたのは赤い髪だけだった。
 サンタクロース?
 赤い髪を見てそう連想した。
 今日は、イヴ。
 突然あらわれた陸王くんは、サンタさんみたいだ。
 おかしくなって、あたしはクスっと笑ってしまった。

「どうした?」
「なんでもない」

 あたしは、両腕を陸王くんの背中に回した。

サンタクロースが来る日:終

 クリスマスのために書いたドリーム、陸王でした。
 赤い髪だからサンタって安直な?! 
      冬里

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