「じゃ、嵐さん、、俺らこっちですから」 「ああ、またな」 「バイバイ、宇佐美くん」
最後に宇佐美と別れて、嵐とは二人になった。 「ねえ、嵐くん、上見て、上!」
に言われ、そうする。
ふたりぼっち『球小潜入!』の続きです。「ただいまー」
誰もいないのに、そう声をかける。
が、先に靴を脱いであがる。廊下を小走りで進んだ後、くるりと振り返った。ポニーテールの黒い髪が翻る。
「あなた、ご飯になさいます? それとも、お風呂?」
ため息をつき、嵐もあがる。 冗談じゃなかったら、何なのだ。こいつには付き合ってられない。
嵐は階段を上った。
「お風呂、私が先ね」
仕方ないなあ、などとぶつぶつ言いながら、は隣の部屋に入った。 「ホラ、九ノ助来い」
ついでに九ノ助の体も洗ってやろうと、呼んだ。 「、、」 と喋りながら、ドアの方に向かった。ドアは閉まっているので部屋を出られない。くちばしでノックするようコツコツとドアを鳴らした。 いつの間にと覚えたのだろう。しかも、「アラシ」より発音が良い気がする。
何だか裏切られたようで、嵐の気分は沈んだ。
九ノ助はの部屋に向かい、器用にコツコツノックした。
「振られちゃったね?」
乱暴に足音を立てながら、嵐は階段を下りた。
嵐が風呂から上がると、ダイニングから声がかかった。 「お腹すいたし、先にごはん食べよ。風呂は後で九ノ助と入る」
見ると、風呂の用意を隣のイスに置いてある。九ノ助も、そのイスで足をたたんで丸くなっている。
「では、手を合わせてください!」 気合を入れて手を合わせたは、出鼻をくじかれたかのように、目を丸くして嵐を見つめた。
「じゃ、普通に、いただきますー」
夕飯は、肉じゃががメインだった。そこに入っているニンジンを見て、嵐は眉をひそめる。
「嵐くん、ニンジン嫌いなんだー?」
しぶしぶ、嵐はニンジンを箸でつまんで、の器に移した。
「じゃ、風呂入ってくるから」
食事も終わり、後片付けはがやり、一息ついたところだった。 すべって、転んで気を失いはしないだろうな……。
数日前、は風呂場で石鹸で足を滑らせ、後頭部を打って気絶した。究極のドジだ。その時は父が様子を見に行って部屋まで運んだからいいものの、今日それをやられると嵐が様子を見に風呂を覗かなければならない。 頼むから、無事に戻ってきてくれ。
気がつけば、嵐はダイニングから離れられなかった。
……遅い。遅すぎる。
そこで嵐はハッと気がついた。もしかして、はまた風呂で何かドジって気を失っているのではないか。そうなると、自分がの様子を見に行き、最悪の場合、を抱えて部屋まで運ばなければならない。 歯を磨きに行くということで、ついでに様子をうかがう、ということにした。
洗面所は風呂の近くだ。そこから、風呂に入っている様子が聞こえてくる。 なんだ、あいつは。 急に腹が立ってきて、嵐はドアを勢いよくあけた。 「風呂から上がったんなら、そう言え!」
そう叫ぶ嵐に驚き、すぐには振り向いた。 「何よ、わざわざそんなこと言う必要ないじゃない」
口を尖らせながら言い返す。 見ていたのは、ドラマだった。画面の中では男女が海辺で語り合っている。今までのストーリーを知らない嵐にとって、何が何だか分からないシーンだ。だが、は黙って、じっと画面に釘付けになっている。
「これのどこがおもしろ……」
ぴしゃりと言われ、嵐は黙った。本当に、真剣だ。 「おい、あれは感動する場面か?」
と聞こうとのほうを見る。すると、は……寝ていた。
「ほら、こんな所で寝たら風邪引くぞ」
目を閉じているの頬に、一筋の涙の痕があった。両親の夢でも見ているのだろう。寝言を言うほど、寂しい思いをしているのか。
「辛かっただろう……」 突然、目を開けた。あわてて嵐は目をそらしたが、は、 「今、嵐くん優しげなこと言ったよね? よく聞こえなかったなー」 大げさに耳を澄ますジェスチャーをする。嵐はカチンときた。
「うるさい、寝てたんじゃなかったのか?」 が、顔を赤らめる。嵐が聞いたことをそのまま伝えると、さらに顔を赤くした。
「ホームシックかなあ」 さらりと嵐が言うと、がさっきからつかんだままの、嵐の袖をさらに強く引っ張った。
「教えたいから秘密にしてよお願い!」
どうせ、誰にもこんなことを言いふらすつもりはない。その価値もないだろう。
「飛行機が、怖かったの」
は、もう、と言って詳しいことを話しはじめた。
の、ぽつりぽつりと語る声が耳に心地良かったのか、だんだん意識が薄れてきて、最後らへんは聞き取れなかった。 「嵐くん、嵐くん?」 は嵐を揺さぶったが、反応が無い。 「寝ちゃった、ね?」 そばにいた九ノ助に話し掛け、首をかしげる。
「仕方ないなあ……」 「私も、ねむい」
まぶたが重く、立ちながら寝そうなほどだった。は、ソファに座り、嵐にかけた毛布に潜り込んで、目を閉じだ。
「おや、これはこれは……」
夜中過ぎに帰ってきた父が、灯りをつけたままのリビングに行くと、ソファで嵐とが仲良く肩を寄せ合って寝ていた。 嵐にかわいいお嫁さんが来たようで嬉しいという気持ちと、友人から預かった大切なお嬢さんが自分の息子と仲良くていいのかという気持ちと、自分の娘に等しいくらい可愛がっているをそう簡単に渡すかという気持ちが、複雑に交じり合った。 嵐の父は、をかかえて、彼女の部屋へと向かった。
『ふたりぼっち』:終
嵐の父、名前ありましたっけ? 忘れました!!(←オイ!) で、おいしいシチュエーションなのにどうして何も発展しないのか? 恋はライバルがあってこそ。 という流れで、次回は大河くん登場。 冬里
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