最初はドジってもたついていただが、一週間も経つとさすがに慣れてきた。 それなら、頼んでもいいかも知れない。 嵐は、紙切れを取り出し、を呼んだ。
球小潜入!『マネージャー』の続きです。
のかん高い声がボックス内に響いた。
「馬鹿! 皆に聞こえるだろ」
ドジなであっても、方向音痴ではなかった。きちんと、地図をどう見ていいかが分かる。東西南北もきちんと分かった。むしろ、方向感覚だけは優れていると言ってもいいだろう。 「けど、あんな嵐くんでも、落し物するんだ……」 しかも、それを他の者に知られまいとしている。第二の秘密の共有みたいで、少し嬉しいとは思った。
「ぜったい、ムリ!」
何段あるのかと、途方に暮れるほど長い。こんな所を走って登る人たちの気が知れない。
階段の中ほどまで上った時、横にある林から声がした。
声のする方へと進んで行くと、やがて木を切り崩し、地面を平らにしたところに出た。 「あれ、ぜったい死ぬって」
木に隠れながら、はその光景を見て震えた。 気づけ、気づけー!
そう思いながら、手を振ってみる。全く、気づいてくれない。かと言って、あんなムチャな練習をしている人たちを通り過ぎて彼女に話し掛けに行くのもどうかと思う。そうか、あの子は一生懸命特訓をしている仲間を見守っているんだなあ、と思った時……。
「あなた、見かけない顔ねえ」 思ったとおり、話しやすそうな子だとは思った。
「私、ブラック・アーマーズのマネージャーの、です」 みさとは、ちらりと練習している人たちを見て、それからまたの方に視線を戻した。 「最初、ムチャだと思ったんだけど、もう一週間もすると慣れちゃった。あの人たち、そんな簡単にケガしないし。いちいち心配してたらこっちの身がもたないわ。ちょうど、退屈してたとこだから、呼んでくれて嬉しかったわ」 ペラペラ喋りまくるみさとに、よく舌をかまないなあと感心しつつ、は笑顔で返した。
「それにしても、あなたってかわいい! って呼んでもいい?」 ということで、二人は仲良くなった。 「あ、ちょっと休憩みたい。皆に紹介するから来て」
みさとに手を引かれ、は休憩中の球小メンバーの所に行った。 「みんな、B・Aの新しいマネージャー、ちゃんよ」 がぺこりと頭を下げると、その場にいた人たちがぽかん、とした表情で見た。体のでかい、赤ら顔のキャプテンらしい人が、 「かわいい子だねえ」 と、やんわりとした調子で言ったとたん、皆がそれぞれ自己紹介を始めた。
「オレ、武田勇一」
体の小さい、炎みたいな形の髪形をした男の子が聞いてきた。何か練習のことで焦っているのか、少し乱暴な口の聞き方だ。それを、みさとが「初対面の人に対して失礼でしょ」と注意する。 「実は、落し物をして、それを拾いに来たの。こんなのなんだけど」 は、その場にいた人に紙切れを見せた。皆が、それを覗き込むように円陣を作る。一人あぶれているのは、弾平だ。
「これ、寺の方で見たことあるよ」 去って行く二人を、メンバーは見送った。 「かわいい子だったねえ」 またしても、やんわりと言うキャプテンに、みんな(弾平以外)がうなずいて、頬を染めた。
石段を登りきる最後の一段につまずき、は転んだ。大丈夫、と聞くみさとの声が上から聞こえる。
「きゃははは、ちゃんたらドジー! かわいいー!」
強引さって、どうして必要なんだろう。
「おお、みさとちゃん、皆まだ練習中かの? そっちのお嬢さんは?」 と、和尚は奥に行った。 「これかの?」 そう言いながら戻って来た和尚の手には、絵と同じものが乗っていた。
「これです、ありがとうございました!」 服部には悪いが、嵐のために嘘を言っておいた。後でバレたら本気で殴られそうだ。服部なら許してくれるが。
「あ、そろそろ帰らないと。みさとちゃん、和尚さん、ありがとうございました!」 は二人に手を振って、長い石段を慎重に下りていった。
練習終了後、ボックスで嵐に言われ、和尚から受け取ったものを渡した。
「せっかく行って来たのに何かえらそう」 ってことは、今日は二人きりじゃない。
その事を知って、の顔が赤くなった。
「で、奴らは寺で練習してたのか? どんな練習をだった?」 前からわけの分からないチームだと思ったが、ここまでわけがわからないとは。その、得体の知れないところに、B・Aは負けたのかもしれない。嵐は、ため息をついた。
ボックスに戻って来た宇佐美らがに駆けつけて来た。
「おい、お前たち、岩のある場所知らないか?」 全員が、嵐の言葉に怪訝そうな顔をした。 「あ、いや、いい。聞いただけだ。気にするな」
そう言って、嵐は更衣室に行った。
『球小潜入!』:終
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冬里