「ちゃん、かわいいよな」
さっそく友達が出来て、その輪の中にいるを見ながら、友人がつぶやいた。
「ちゃん、バリかわいい……」 何を言っているのだ、こいつは。そう言えばどうしてこんな奴と友達なのかと嵐は思った。
マネージャー『ナイトメア』の続きです。
聞き覚えのある声がした。
「御堂くん、家そっちの方向? やった、私も!」 は横に並び、声をひそめて言った。
「つけられてるのよ。私、さっそくマークされたみたいで」 こっそり後ろを向く。すると、電柱の後ろや自販機の陰に隠れる人影があった。
「ええと、なんでか分からないけど、前の学校でも、その前の学校でもよくつけられました」
そういうことになった。
それにしても、どうしてこんな奴がストーキングされるほどモテるんだろう。
いろんな人ってどんな人だ、と心の中でつっこみつつ、嵐はボックスに向かった。もついて来る。練習の見学でもさせておこう、とぼんやり思い、の方を見ようとした。が、横に並んで歩いていたはずのがいない。 どこに行った?
「へえ、ここ初めて来たんだ」 声のした方に行くと、が他チームのメンバーに声をかけられていた。二人の、少しガラの悪そうなそのメンバーに囲まれながら、は困った顔をしていた。
「何をしている?」 二人は嵐を見るや否や、すぐにから離れて去って行った。
「さっき、つかまっちゃって」
「嵐さん、その人は?」
にかわいいと言われ、ハムっぽいとも言われ、ついでに駆け寄って頭をなでられ、宇佐美は顔を真っ赤にした。
「うう、かわいいー。大丈夫、私が守ったげる!」 そう聞かれては頭をなでる手を止めた。
「申し遅れました、私、です」 ボックスのドアが開いた。高山が来たのだ。 「オス、高山さん」 高山は、ああ、とうなずいた。視線を宇佐美から横にずらす。を見て、 「宇佐美、その人は?」 と聞いた。がニコリと微笑み、自己紹介すると、高山は少し顔を赤くした。 「マネージャー希望なのか?」 めったに喋らない高山が、聞いた。ただ、にではなく、宇佐美にだが。
「違うんだけど、でもそう言われるとやってみたくなった……」 着替えを終えた嵐が、の言葉を遮った。
「何よ、ひどいなあ」 高山がをフォローする。
「高山がなぜの肩を持つんだ?」 入部テストか。それならいいかもしれないと嵐は思った。考えてみればマネージャーが欲しいと思っていたところだ。なぜかを避けたい自分がいて、今から考えてみると、それが不思議だ。
念のために渡されたメモにコートの長さなどが書かれている。きちんとメジャーで測り、石膏ライナーで引かなければならない。 「よし、ちょっといがんでるけど、分からないよね、目の錯覚か何かで。これでいいか」 ボールなどを取りに、預かったキーをポケットから取り出しながら、倉庫に向かった。
ランニングから戻って来た嵐はつぶやいた。
コートだけではない。
「なんだ、このスコアボードは?!」 仕方なく、はスコアボードを押して、倉庫に向かった。いつの間にか、ボールは元に戻っている。
「嵐さん、言いすぎですよ。初めてで勝手が分からないんですから」 口々に言ってくるメンバーを嵐は睨み、柔軟と筋トレするから二人一組になれと言った。全員、はあい、といつもより気の無い返事をする。 「しまってきたよー」 が戻って来た。柔軟をしているメンバーが、ちらっとそちらを向き、すぐに戻すのを嵐は見逃さなかった。
「宇佐美、お前あぶれてたな。よし、に手伝ってもらえ」 宇佐美が待っている所に行く。お願いします、と言って宇佐美はちょこん、と足を伸ばして座った。かわいい、と言いつつはその背中を押す。
「ねえ、嵐くんていつもああやって怒鳴るの?」 そう聞かれて、はとまどったが、
「同じ学校で、同じクラスなの。私、今日転校してきて、無理言ってここに連れて来てもらったのよ」 柔軟から、筋トレに入った。
「そっか。そうだよね。でも、慣れる前にまずこのテスト受からないと!」 嵐に注意されて、二人は口をそろえて、すみません、と言った。言ってから二人でクスクス笑う。
「よかったね、ちゃん!」 嵐がまた怒鳴り、しん、と静まり返った。 「で、。テストの結果だ」 皆が、つばを飲み込む。
「失格。マネージャーの素質なし」 叫んだのは、宇佐美だった。
「確かに、はめっちゃくちゃドジかも知れませんけど、でも、俺たち今日はがいるおかげで練習に励めました」 普段は嵐の言うことを聞くメンバーだが、この時ばかりは全員が反対した。俺も、俺も、というコールは続く。
「み、みんな……ありがとう」 天使のような微笑を浮かべて嵐を見る。全員がその笑顔を見て頬を染めた。ただ一人、嵐を除いて。
「見学に、こればいいじゃないか」
「何だか知らないけど、ちゃん、嵐を脅迫してるよね?」 チームのメンバーがヒソヒソと話していた時、 「皆の意見はどうだ? ここは多数決で決めよう。それなら文句あるまい」 嵐の提案に、皆がうなずいた。 「それでは、いく。がマネージャーになるのに反対な奴!」
嵐が、手を挙げながら聞く。 「で、では、賛成……」 嵐を除いて、全員が手を挙げた。 「決まったな」
ぽつりとつぶやく高山に、嵐は「この裏切り者め」とでも言うような目で見た。それを見ても高山は平然としている。 「みんな、ありがとう。改めて、自己紹介します。新しくマネージャーとなりました、です。みんな、よろしくね」 と、微笑むを見て、皆、拍手喝采だった。口々に「こちらこそよろしくー」などと言っている。
そうだ、こいつがいろんな所で俺の調子を狂わせるから、俺はこいつを避けようとしていたんだ。
そう気づいた頃にはもう遅い。
『マネージャー』:終
なんか、ひどいヒロインでごめんなさい。ぜったい、女子からは嫌われる。てか、私もそういう女がいたらムカつくと思うのです(じゃあ書くなよ) そこらへんをフォローするため、次回は球小のヒロイン、みさとちゃんが登場します。あと、弾平たちも。お楽しみにー。 冬里
|