東京地区予選。 東京のアリーナで行われるため、B・Aのレギュラーメンバーで電車に乗って向かった。遠足みたいだ、とはわくわくする気持ちを抑え切れなかった。
それにしても、あのドレスみたいな服にするというのを止めて良かった。
目的地に近づくにつれて通勤客などで混み合ってきた。皆、座ることができずにずっと立ったままだ。
結成!神奈川選抜!「すごい、キレイ!」 アリーナの前に立っては歓声を上げた。 「東京地区予選って、こんなところでやるんだねえ」 と、目を輝かせていた。 「さすが東京大会だけあって、テレビ取材も来てるぜ」
宇佐美がレポーターを指しながらに言う。二人は一緒にはしゃいだ。 「五十嵐くん!」 が手を振りながら後ろから声をかけた。すると、全員が振り向く。立ち止まり、口々に「様」と呼んだ。どうして様をつけて呼ぶのか、と嵐は気味が悪くなる。
「チケットをありがとうございました」
という会話が交わされた後、B・Aが先に行く形で観客席に行った。チケットで示された通りの座席に向かう。ちょうど一列に一チームずつ座れるようになっていた。前列はB・Aで占める。 「そういえば、弾平は地区予選以来ずっと眠ってるらしいじゃないか」 嵐はAブロックに連城のチームが出るのを確認してからに聞いた。 「うん。だから、今日は陸王くんが弾平くんつれて来てくれるみたいだけど……」
は後ろを向き、陸王と球小のメンバーが座るはずの席が空になっているのを見て、まだみたいね、とつぶやいた。 「待たせたな」 遠くから声がし、もしかすると、と思い振り向くと、陸王がいた。肩に弾平を担いでいる。弾平はぎゃーぎゃー騒いでいた。寝ていたのに起こしやがって、などと言っている。その後に球小のメンバーがいた。
「陸王くん、無理を言ってごめんね」 が陸王に微笑みかける。
「ちゃん、チケットありがとう」 弾平の母親と親しそうに話す。いつの間に親しくなったのだろう、と嵐は不思議そうに二人のやりとりを見ていた。
「みさと、元気してた?」 女三人寄れば何とやら。試合そっちのけでお喋りをしそうなのを見てとり、嵐がを肘で小突く。なに? と聞いてくるとその他の人に向かって、 「試合、始まったぜ」 するとはおとなしく前を見た。 「弾平、あいつが連城祐介。全国大会優勝候補、ブルースカイ・レインボーズのキャプテンだ」 陸王の説明に弾平が、あんな女みたいな奴が? と返す。その率直な物言いが小気味良く思え、嵐は少し機嫌が良くなった。 「そういえば、あの連城って人は元B・Aなの?」 が聞いてくる。この前、連城がB・Aを知りつくしているかのような態度を取ったからだろう。ああ、と嵐はうなずいた。 「あいつは、元B・Aのキャプテンでエースだった」 そして、それ以上は言わなかった。聞いていた弾平が、じゃあ嵐と同じぐらい強かったってことか、とうなずく。
完全に左右両手を使ってショットを繰り広げる連城を見て、一同は驚く。さらに彼の必殺技、レインボー・ショットがトリプルヒットを決めた。黄色い歓声が上がる。それから連城はに向かってウィンクをした。 「ウィーアーザ・No1!」 連城が勝利の宣言をすると会場が沸きあがった。 「もう終わっちゃったの?」
せっかく来たのに……とはため息をついた。弾平も、つまんねえ、とぶつぶつ言う。 「気持ち悪い」
不快極まりない、と言ったような声を出した。嵐は大いに同意した。の方は先ほどと同じように平然としている。 「誰だ?」
笑顔を見せていた連城の顔が急変して鋭いものとなる。 「お前たちは何だ?」
連城が叫ぶ。 「何者だ、あいつ?」 皆が口々に言っていると、マスクの男がこちらを向いた。 「いつまでそんなマスク被ってるんだ、大河!」
弾平が叫ぶ。 「久しぶりだね、弾平くん、みんな!」
あの二階堂大河が帰ってきた。
「君たちと試合がしたいと思う。全国大会進出を決めた球川小のメンバーに、陸王くん、嵐くん、高山くん、五十嵐を加えた神奈川選抜と僕の率いるヨーロッパ選抜の試合はどうだろう?」
弾平が即答する。 場所は神奈川アリーナで、二週間後の日曜、午後の一時ジャストに試合開始、という運びとなった。会場内が湧き上がる。面白いことになりそうだ、といったところだ。
「どうしたの? 何か浮かない顔してるよ?」 みさとがの顔をのぞきこむ。なんでもない、と無理に笑顔を作っては答えた。 「気分でも悪いのか?」 一緒に乗っていた陸王が近づき、の額に手を当てた。静かに、は首を振る。
「心配かけてごめんね、本当に何でもないの」 みさとにそう言われては、みさとには敵わないなあ、とつぶやいた。 「ここで言いたくないようなら、いつでもうちに来なさいよ。相談に乗るわ」 はるかが優しくそう言うと、はにこりと笑ってうなずいた。
帰り、二人で歩いている時にはぽつりと嵐にそう言った。
「怖いだと?」 と、うつむいてため息をつく。 「前に奴が告白してきたのと関係があるんじゃないか?」 思いついたことをすぐに言うと、は肩をびくっとさせた。
「そうかもしれない。返事、しなきゃいけないから」 立ち止まり、嵐はの顔を見た。は顔を赤くしていた。
「前は、そういう恋愛のこととかが分からないって言って断ったの。それじゃあ、帰ってきた時まで待つ、って」
は目を伏せていた。それで、電車の中で元気がなかったのかと嵐は気づく。なぜか知らないが、腹が立ったのでに背を向け、先に歩き出した。後からとぼとぼとついてくる足音がする。 ふと振り返ると、は地面を見ながら歩いていた。 「どうして、前にきっぱりと断らなかった?」 もてあましていた感情をにぶつける。突然のことではとっさに嵐の方を向いた。 「……なんで怒鳴られなきゃいけないの?」
そう言われてみると返す言葉がない。 「どうやって断ればいいか、分からないのよ」
のつぶやきが背中に当たる。 「お人好しすぎるんだ」 立ち止まり、そう返す。が横に来たのを確認してからまた、歩き出した。
空は、冬の冷気を帯びて青く澄んでいた。 結成!神奈川選抜!:終
とうとう、この連載も終わりに向かおうとしてます。どうラストを切るかが難しい所ですがあと数話、がんばります。 それにしても連城、大河の扱いが悪い。美少年キャラなのに。 冬里
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