試合が始まる。 緒方と陸王は高く、ジャンプした。 陸王がボールをキャッチする。そして……。 着地する前に陸王がボールを緒方の顔面にぶち込んだ。 「緒方くん!」
の叫び声がコートに届いた時にはもう、緒方は地面に倒れていた。
地区予選(中)「顔面セーフとか、じゃないの?」
がぽつりとつぶやく。横にいた控えの選手は静かに首を振った。当たり前だ。それがスーパードッジだ。そんなことは、にも分かっていた。しかし、あれは反則だと思う。緒方の歯が、鼻が、折れていないか心配だ。 「いけー、高山くん!」
が声をかける。ボールは陸王をめがけていた。 ボールは荒崎小だ。陸王がボールを持ち、両手でそれを圧迫してからショットを放った。 「プレス・ショット!」 荒れ狂う野生動物のようなショットが、服部と結城を襲った。ダブルヒットだ。七対四。 「いつまでも調子にのるな!」 嵐が二人をヒットしてもなお、勢いの止まらないボールをキャッチした。目は、殺気を帯びて荒崎小を見ている。 「嵐くん!」
が立ち上がり、声をかけた。チャンスよ、と目で呼びかける。嵐はその方を見て、ゆっくりと、うなずいた。 「スピン・トルネードショット!」 回転したボールが嵐のように荒崎小を襲う。二人をヒットし、ボールは陸王の手に収まった。五対四だ。 「やったね、あと一人で同点よ!」
はガッツポーズをした。 「宇佐美くん」 が叫んだ時には、陸王がボールをキャッチしていた。そして素早く、プレス・ショットが放たれる。 「これ以上、ヒットされてたまるか!」
嵐が、前に出て宇佐美をフォローしようとする。 「ぐっ……」 プロテクターをしていても、凄い衝撃が走る。嵐の体はショットに押し倒された。 「嵐くん!」 が立ち上がり、コートに駆けつける。 「タンカの用意、お願いします」
夢中になって、控えていた大会のスタッフに向かって叫んでいた。 「嵐くん、死なないで」 ひざまづき、嵐の手を握る。 「……バカ」 かすれた、声で嵐は言った。目をうっすらと開けてを見る。 「大げさなんだ、お前は」 そしてうっすらと、微笑を浮かべた。そんな表情をする嵐を始めて見る。嵐が微笑んでいるのにもかかわらず、はそれを見て胸が苦しくなった。どうして、そんな顔をするの。いつもみたいに、ちょっと怒ったような顔でいいのに。 「嵐!」 弾平たちが駆けつけてきた。 「焦りすぎかな、ぶざまなとこ、見せちまった」
嵐は弾平たちにも、優しい目を向けた。その時、低い、うなり声が響いた。 「試合終了! 五対零、荒崎小!」
くっ、と嵐が苦痛の声をあげる。
滝が陸王に言った。陸王は、うなずく。
「酷く、打ちつけているみたいだ」
側にいた、にスタッフは言った。医務室には他のメンバーもいて、手当てを受けている。ベッドの側にいるのはだけだ。 「病院で見てもらった方がいい」 そう言うスタッフに、私も行きます、とは言う。それを、嵐は止めた。 「お前には、残ってもらう。やることがあるだろう」 かすれた声で、嵐は言い、手当てを受けている仲間を見た。も嵐と同じものを見て、うなずく。
「だから、そんな顔をするな」
スタッフが数人来て、嵐をまたタンカに乗せた。そして、外に連れ出そうとする。は、せめて救急車のところまで見送ろうとしたが、嵐は片手を挙げて止めた。来るな、というのだ。
嵐以外の全員が手当てを終えた。幸い、病院に行く必要があるのは、嵐だけだったのだ。 「みんな、」 出口からの階段を下りた所で、は皆の方を振り向いた。 「くよくよしたって、仕方ないじゃない」
と言っていて、涙が出そうになる。 「そういうの、似合わないよ」 宇佐美が、を見上げた。他のメンバーも、うなずく。
「には、そういうの、似合わないよ。皆を励ますとか、そういうの」 涙が、こぼれた。つらいのは皆の方なのに、泣いてはだめだ、と思っていても涙は止まらない。
「ごめん、私……」 緒方が言った。他のメンバーも、
「そうだ、さんは俺たちの代わりに泣いてくれるだけでいいんです」
は、手で顔を覆った。涙は、次から次へとあふれた。 空では太陽がキラキラと輝いていて、たちを慰めるかのように暖かい光を放っていた。
『地区予選(中)』:終
ああ、もう、試合の流れ覚えてないし、そもそもジャンプボールに立ったのが誰だったかも忘れていました。すみません。 ええと、B・Aは負けたけど、まだ地区予選編は続くという、どんなんやねん、とつっこみたい構成です、はい。 冬里
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