サイドカーつきのオートバイが庭にとまっている家に着いた。犬小屋もあり、そこに大きな犬がいる。
 みさとがインターホンを押すと、はい、という返事と共にドアが開いた。スレンダーな体型の、ショートヘアーの、女の人だ。きれいな人だな、とはしばし見惚れた。

「あら、みさとちゃん。その子が噂のちゃんね?」
「こんにちは、はるかさん」
「は、はじめまして」

 あわてて、挨拶をする。なぜか、顔が赤くなっていた。は、この人が弾平の母だということが信じられなかった。



一撃家訪問!





 家にあがり、ダイニング・キッチンに通された。

「座って。今、お茶用意するから」
「お構いなく。早めに来ちゃってごめんなさい。の相談にのってほしくて」
ちゃんの?」

 キッチンのカウンター越しに、はるかがこちらを見つめた。興味深そうな目だ。
 はるかがコーヒーを持ってきて、テーブルの上に置いた。とみさとは砂糖とミルクを入れた。コーヒーにミルクがマーブル模様を描いているのが見ていて楽しい。
 ビスケットをボウルに入れて真ん中に出された。はるかはそれをつまみながら、とみさとを交互に見た。

「で? 相談って何なの?」
「ほら、ケンカのこと言っちゃいなよ」

 みさとが軽く肘で小突いた。今日で二度目だ。初対面の人の前であの話をするのは少し気が引けたが、は病院で起こったことからこと細かに話した。はるかは、ところどころで相槌をうちながら聞く。

「ってことは、全ての原因はうちの弾平ね! あとで一発……」
「や、やめてあげて下さいよ。弾平くん、今落ち込んでるんだし」
「それもそうね。で、ちゃん」

 呼ばれて、はい、と返事をした。まるで学校みたいに。

「ここはちゃんが折れるべきね」
「ど、どうしてですか?」
「嵐くん、やきもちやいてるってのもあるけど、ちゃんを心配して怒ったのよ」

 そういえば、そんな気もする、とは思い出した。初めて荒崎小から戻ってきた時は、何もなかったのかと心配してくれた。嵐は、そこでが謝ったので、もう荒崎小には行かないと思ったのだろう。ところが、はクッキーを渡しに行った。俺の言うことが聞けないのか、という感じで嵐は怒ったのかもしれない。

「嵐くんて、プライド高いものねえ」

 はるかが、つぶやいた。みさとも、うなずく。

「なかなか、自分から謝りそうにないし。仲直りしたいのなら、ちゃんが謝ってあげなさいよ。荒崎小に行ったってことで心配かけたんだから」

 そうしよう、とは思った。こくん、とうなずいてその気持ちをはるかとみさとに伝えた。それを見て、はるかが微笑む。

「よし、じゃあお昼にしようか。その後でお菓子作りよ!」
「やった! 、できたやつ嵐くんに渡しちゃえ」

 もう一度、うなずく。
 キッチンに行ったはるかの後をみさとがついて行った。それを見て、手伝わないと、と気づいてイスから立ち上がる。すると、二人が「お客さんなんだから座ってて」と口をそろえて言った。仕方なくイスに座りなおして、ビスケットを一つかじる。

 お昼からハンバーグなのが少し贅沢な気分がして嬉しい。

「弾平くんは?」

 と聞くみさとに、はるかは、

「さあ? 珍念くんと特訓してるんじゃない?」

 と返した。すごい家庭なんだな、と思う。
 みさとの話では、が帰った後に弾平と白河という荒崎小のメンバーが勝負したらしい。そして、結果は弾平の負け。さらに陸王の強力なパワーショットを見せられ、それ以来、弾平は打倒!荒崎小に向けて特訓をしているらしい。
 そういえばもうすぐ地区予選大会だ。
 B・Aでも、皆遅くまで厳しい練習をしている。皆、忙しいのに結構、抜けちゃったな。は反省した。そのことでも、謝ろう。



 お菓子はカップケーキ。
 小麦粉、バター、卵などを混ぜて型に入れてオーブンで焼く。

「ああ、かわいい子に囲まれてお菓子作りなんて、夢みたい」

 はるかは本当に嬉しそうだ。
 できたカップケーキのうち三つを袋に入れて、ラッピングして、はるかはに渡した。

「これ。嵐くんに渡しなさいな」
「ありがとうございます」

 きちんと謝る勇気がわいてきた。思わず微笑んでしまう。
 できたカップケーキは、すごくおいしかった。三人の力だね、とみさとが笑う。
 仲直りできたら、それは二人のおかげだ、とは思った。



 帰り、はるかがとみさとを途中まで送ってくれた。が二人と別れる道にさしかかった時、二人に礼を言った。

「がんばってね、
 みさとがガッツポーズをとりながら言った。単にがんばって仲直りを、というだけの意味ではなさそうだ。
 は二人に手を振って、家路をたどった。





「ねえ、はるかさん。と嵐くんて……」
「まあまあ。みさとちゃんの気持ちも分かるけど、ここは静かに見守っておきましょう」
「でも、やきもきする! あー、に言ってやりたい!」
「だめよ。言ったら、ちゃん、変に意識するでしょう。じゃあ、逆効果よ」

 はい、とみさとは返事した。
 二人はの行った道を、しばらく見つめていた。





 夕日がまぶしい。カラスの鳴き声がを急き立てているみたいだ。
 は、早歩きをして家に向かっていた。早く、嵐に会って、謝らないと。
 ところが偶然とは凄いもので、歩いている道の先に、嵐の姿が見えた。思わず、走って追う。

「嵐くん」

 呼ぶと、けげんそうな顔をして嵐が振り向いた。に気づくと、片方の眉をつり上げた。そして、立ち止まらずに先を歩こうとする。そうだ、ケンカの最中だから嵐も無視を決め込もうとしていたのだ。は嵐の後姿に向かって言った

「ごめんね」

 ぴた、と嵐が歩くのを止める。続けては謝った。

「荒崎小に、勝手に行ったりして。練習も、皆一生懸命なのに、結構、抜けちゃったし」
「……もういい」

 嵐の声が聞こえた。え? と聞き返すと、もう一度聞こえた。

「もういい、って言っている。許してやる」

 それを聞いては、心がみるみるうちに軽くなっていくのを感じた。

「本当に?」

 嵐のそばに駆け寄り、カバンから袋を取り出した。カップケーキの入った、ラッピングしてある袋だ。

「じゃ、仲直りの印に」

 と言って渡す。本当はお詫びの印に渡すつもりだったが、いいだろう。
 差し出された袋を見て、嵐は少し表情を和らげる。そして、受け取った。

「……その、俺も言いすぎだった」

 嵐がぽつりとつぶやいたのを、は聞き逃さなかった。嵐くんが謝るなんて、明日は雨かも。などと思いながらは、にっこり笑った。

 夕焼けに照らされて、長い影が道に映る。
 二人の影は寄り添っているようにさえ見えた。

『一撃家訪問!』:終

 あ、タマ公とふれあうシーン書き忘れた!!
 なんか、はるかさん書きたかったんです。それだけです。(←ヲイ!)
 とりあえず、仲直りできた所で次回はスポコン、原作寄りの地区予選。

      冬里