桜はもう散ってしまった。今は緑の葉が緩やかな太陽の光を受けて輝いている。そんな桜の木の下で、Jはトレーニングをしていた。驚羅大四凶殺に向けて特訓しているのである。
 そんな時、一つの影が彼の背後にたった。
 気配に気がついてJは振り向く。立っていたのはであった。



特訓





「精が出るな、J」

 にこりと笑ってそう言う。Jは拳を下ろし、改めての方を向いた。

「通りかかっただけだから、続けていていいんだぜ?」
「いや、俺も休もうと思ってたところだ」
「そうか」

 はもう散ってしまった桜の木を見上げた。日本人は桜を特別なものとして見るらしい。美しく咲いて、潔く散る。それを自分たちと重ね合わせているのだろう。もう緑の葉しか残っていない桜を見てが何を考えているのか、Jは知りたかった。
 やがて、物憂げな顔をJに向ける。東洋人は年齢より幼く見えるものだが、の場合はそれにつけ加えて女のように見える。いや、そこらへんの女よりキレイだ。

「勝てよ、J」

 真剣な表情だ。あまりにも真剣なので、いつもならすぐに出てくる返事も出てこない。死ぬな、と言わずに勝てよというところがらしい。

「分かってる」

 やっとのことでそれだけ言って、またトレーニングに戻る。もうすぐで、伝説といわれた必殺技が完成しそうなのだ。は立ち去ろうとせずにその場にいたままだ。視線を感じながら続けるのも悪くはない。

「アメリカに帰りたくはないのか」

 急に言われて、動きを止める。

「なぜ?」
「いや、この前まで『やっぱり帰るんだった』なんてつぶやいてたからな」

 いたずら小僧みたいな目で、笑う。
 まいった。
 まさか聞かれていたとは。しかし……。

「今は帰りたくない」
「そうか。そいつは良かった」

 じゃあな、と言っては去って行こうとした。
 一瞬、甘い香りがした。
 が女であるかのような錯覚がした。
 しかしそれも一瞬のことで、Jはすぐに現実に戻る。の背中を見て奴が女であるはずはないと思い直した。男でも耐えられるわけがないこの男塾に女がいるわけがない。どうやら、自分の期待が都合よく一瞬だけの幻を見せたようだ。
 そう、Jはを女であればいいと思っている。
 自分は男であるにそう願うほど女好きだったろうか、と自分に問うてもこの気持ちは治まらない。
 の背中を見送りながら、胸の中でJは言う。

 お前がいるから帰りたくないのだ。

 なんて女々しさだ、とJは自嘲した。そんなことは決して本人を前にして言うことはできないだろう。それでいい。男を極める男塾で、そんな女々しいことを言われたらだって迷惑だ。
 ふと、Jが桜の木を見上げると、緑の葉の中に一つだけ桜の花びらが残っているのを見つけた。恐らく、これが最後の一枚だろう。
 風がふく。
 その花びらは風に乗ってJの前を横切り、やがて光に溶け込んで見えなくなった。

特訓:終

 タイトルと内容が合ってないなあ。ほんとに。
 すいません、伊達だと言ってたのになぜかJです。
 話の流れに沿って、次回は大四凶殺が終わった辺りからで。あー。いろんなキャラ書きたいです。

      冬里

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