「遅刻しちゃう!」
はパンを口にくわえたまま家から飛び出した。
転校初日で、いきなり遅刻なんて、ついてない。
住宅街をダッシュで通り、河原に出た。川に沿ってのびている道をまっすぐ行けば学校だ。しかし、その道はにとって決して短くはない。
慣れない道を走っていると、後ろからブロロロとエンジン音がした。
バイクだ。
バイクがの横にゆっくりと止まった。
「おい、見かけねえ顔だがどこの学校だ?」
バイクの人が声をかけてきたのでは立ち止まり、振り向いた。
赤い髪をした、くせのある長髪。
タンクトップからのぞく腕は筋肉がガッシリついている。
何よりも、背が高い。
不良の中学生か高校生だろうか。
は少し怖くなったが、それを相手に悟られたくない気持ちが働き、
「荒崎小です!」
大声で答えた。
「なら、行き先同じじゃねえか」
は首をかしげた。どうして不良が荒崎小に用があるんだろう。
しかし不良は親指を立て、それからバイクの後部を指した。
「乗って行きな」
「でも……」
はとまどった。
知らない人について行ってはいけないと言われている。
「ほら、さっさと乗れって」
不良はの手をつかんだ。
「い、いたい。離して」
「じゃあ、乗るんだな」
は仕方なく、バイクの後部に乗った。着ていたのがスカートじゃなくて良かったと思う。
バイクが走り出した。
風を切ってバイクは走る。
不良の赤毛が風になびいての顔を時々、くすぐった。
「ほら、しっかりつかまってねえと、落っこちるぜ」
確かにスピードは速い。
は不良の腰に手を回し、しっかりつかまった。
「荒崎小だと言ったな。転校生か」
「そうです」
「どうりで、見かけない顔だと思った」不良はヒューっと口笛を鳴らした。「こんなカワイイ子、今まで見たことねえからな」
「え……」
校門が近づいて来た。
「どうやら間に合ったようだぜ」
バイクを止め、を下ろしてから不良は、バイクを校門の近くにおいた。
はその学校を見て、あ然とした。
割れたガラス、壊れたフェンス、落書きだらけの壁……。
父に聞いていたけど、まさかここまで荒れた学校だとは思わなかった。
「陸王さん」
校門からモヒカン刈りやスキンヘッドやらの不良がわらわらと出てきた。
「おはようございます、陸王さん!」
不良たち全員が、陸王と呼ばれている、赤毛の男に挨拶をした。
「陸王さん、今日は何をして時間つぶします?」
キズだらけのスキンヘッドがニコニコしながら陸王に聞いた。
「いや、今日は……」陸王は振り向き、に聞いた。「お前、何組だ?」
急に振られて、戸惑いながらも、は昨日父から聞いた組を思い出そうとした。
「確か……3組だわ」
ヒューっと、陸王が口笛を吹き、
「同じクラスじゃねえか」
同じクラス? は耳を疑った。荒崎小だと言った時、行き先が同じだと言っていたが、まさか……。
「これから、よろしくな」
と、陸王はにウィンクした。
「陸王さん、それじゃあ今日は……」
「ああ。こいつを職員室やら教室やらに案内しねえとな。慣れないことも多いだろうから、俺が授業に出ていろいろ教えてやらねえと」
「はあ、それじゃあ俺らも自分のクラスで授業受けます」
自分の知らないところで何かが決まったかのようだ。は陸王に促されて校舎に入ってからも、この不良たちに囲まれて、変な夢を見ているかのような感覚に襲われた。でも、悪夢ではなさそうだ。
「あの……」モヒカン刈りがに声をかけた。「これからは、姐さんと呼んでもいいですかねぇ?」
終